藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

司法試験の出題制限と法曹の質


 最近、法科大学院関係者から、司法試験の試験範囲をもっと狭くしろ、という声が聞こえます。
 例えば、択一試験を廃止せよ、という声もあります。


 私も、今の7科目+選択1科目というのは、ちょっと重いかな、という気がします。
 かつての旧司法試験も、一時7科目あったのが結局6科目化したのですから、憲法民法・刑法・商法(含会社法)・刑事訴訟法民事訴訟法の6科目で良いと思います。


 しかし、現在の試験範囲縮小論者の議論は、それに留まらず、大胆に細かい知識は不要であると求めるものです。例えば、債権各論については、売買と賃貸借だけ問えば足り、他は聞くな、等々。


 これらの主張は、法科大学院の現状に鑑み、法曹の質を向上させていくのは無理、という前提で論じられている気がします。しかし、一定の質を生み出せない法科大学院は、淘汰されるべきであって、延命させられるべきではありません。


 また、択一試験のない司法試験は、世界的に見ても稀です。ご承知のように、日本の法科大学院は、アメリカを1つのモデルとしつつ、従前の法学部教育との融合を図ったものでしたが(というかどっちつかずになった訳ですが)、アメリカの司法試験も、論文も択一もあるわけです。隣国中国の国家統一司法試験だって、択一はちゃんとあります。


 ただ、知識はないが、文書力はあるといった人について、知識がたりない分その文書力を評価するといった手法はあり得るかもしれません。アメリカでも、MBE(択一)、論文試験のほか、PTまたはMPTと呼ばれる、実務試験(科目の知識を前提とせずに、法律や判例を与えて、意見書などの書面を起案させる試験)があり、比較的高い配点が与えられています(例えばカリフォルニア州の場合は、26%、2問×3時間。ニューヨーク州の場合は、10%、1問×1.5時間)。もしも「多様な人材」を救うという見地から試験に配慮を行うのであれば、全体的な質の低下を招きかねない基本的な試験範囲の縮小をするのではなく、基本的な試験範囲は維持した上での+αを見る制度の導入が有意義ではないかと考える次第です。


 法曹の大量増員という現実の中では、法科大学院の学生も、法科大学院自身も、司法試験も、2回試験も、そして法曹になった後も、ずっとずっと競争競争で質を維持していくというのが、司法試験のみでの競争であった従前の「点」から「線」への転換という意味であったと思います。とっても辛いことではありますが、その入口である法科大学院の教育や司法試験において、安易な救済をしてしまっては、法曹の質の向上ということは難しいのではないでしょうか。