藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

インパクトがあるかどうか分かりませんが8月6日に・・・


朝日新聞関西電子版2008年7月26日付
大阪弁護士会、司法試験合格者2千人に抑制要求へ」
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200807250097.html

政府の「3千人計画」に基づいて毎年増員が進む現状に触れ、政府の数値目標を速やかに見直すことを要求。その理由として、近年の司法修習生に知識が不十分な者がみられることや、昨年12月〜今年2月の新規の弁護士登録が2115人に達する中で、法律事務所に就職できない弁護士が増えていることを挙げた。そのうえで、まずは今年度の合格者数について「前年度の合格者数(2099人)より増やすことのないよう求める」としている。
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一方、政府計画への批判を強める若手弁護士ら112人は「執行部案でも不十分」と主張。「数値目標を直ちに見直し、当面の合格者数は前年度より大幅に減少させるべきだ」とする独自の決議案を臨時総会に提出する構えだ。会内では、政府の増員路線に否定的な意見が目立っており、どちらの案が決議されるか不透明な状況になっている。


 昨日、京阪電車で待たされた話を書き込みましたが、その前に参加した法曹養成・法科大学院運営協力センターの会合も、この執行部案(8号議案)と若手弁護士の案(9号議案)が話題になりました。若手弁護士案に一理あるとすれば、実はこの案が、常議委員会という決議機関に執行部が当初提出した案であるという点です。執行部案は本来執行部が推すべき案ではなかったという点が、議論を「不透明」にしている点ではあります。


 しかし、若手弁護士の多くが合格者数の減少を求めているかのような論調はおかしいです。
 私のように、むしろ増員を進めても良い(それが法曹の質の維持にはつながらないが、世界競争の中で勝ち残る一部の法曹と敗北する大多数の法曹という構図を国民が望むならやむを得ないし、いずれにせよ世界で勝てる日本の法曹が生まれなければならない)と思う者だっています。私はこの2択なら8号議案を押しますが、本質的には、法曹を農業や漁業のような国際競争力がないといわれる産業にしないためにも、もっと世界で戦えるだけの競争、逆説的に言えば、世界で競争を勝ち残れなければ食っていけないような産業にしなければいけないと思っています。規制で保護される産業では、人口の減少に伴って縮小再生産する以外に途がなくなります。


 この両案が採決される8月6日の臨時総会が多少なり注目されるなら良いですが、既に日弁連の意見が出ている中で、果たして世間の注目を集めるのか、集めるとして、やっぱり法曹は守旧派だったか、と言われないような評価を受けられるのか、気になります。


 ただ、法科大学院の学生や、法科大学院を志望する方に申しあげたいのは、このような議論をしている者の多くが、決して法曹の既得権益を守りたいだけで合格者減や、合格者増のペースダウンを求めている訳ではないということです。確かに、近時の法曹の質は下がっています。それは、法曹になろうとする人が減少していることからも立証できるでしょう。新規参入が減れば、いかに法科大学院で良い教育をしても、質の低下は免れません。優秀な人が沢山法曹を目指して欲しいという思いを、いずれの立場の人も本気で持っていることは分かって欲しいです。ただ、その実現過程が、移行期のために色々な説があって混乱しているだけです。私個人は、もっと世界で勝てる日本の法律事務所という成功像を達成してみせることで、弁護士に人材が集まれば良いと思っているし、若手案の方は、おそらくは、合格すれば一定の安心が得られるという法曹にすることで、もっと安心して法科大学院に行く人が増えれば、結果的に新司法試験の合格率が低下したとしても、それは旧司法試験よりは高い合格率であるし、法曹を志望する優秀な学生は増えると考えているのではないかと思います。


 現時点という限られた時間で現実的に判断すれば、すぐに世界で勝てる日本の法律事務所という成功像を示せる訳ではないし、現に合格者の中で入所する事務所が見つからない人が多数発生していること、現在の法曹人口増があまりに急であることは確かに実感としてあること、とはいえ、3000人に合格者をするという政治決断も無視できないことから、個人的な中長期的見通しとは相容れない決議である面はありますが、この2008年8月6日という段階では、「ペースダウン」により合格者像の実態を検証したいという日弁連意見と、これに沿う範囲内といえる大弁執行部案が良いのかもしれませんね。しかし、難しい問題です。