藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

外国の会社を訴える

 私の経歴と経験からでしょうか、私のもとには、外国の会社に対する債権の請求をしたい、という相談は、結構あります(外国の会社からの請求を逃れたいという相談も多いですが)。


 上記のうち、請求したいという場合ですね、考えなければいけない要素は、(1)任意交渉で勝負するか、仲裁か、訴訟か、(2)仮に日本で勝負しようとする場合、日本に管轄があり、準拠法が何法か、(3)その外国会社は、日本会社法上の登記を行っているか、(4)その外国会社の資産はどこにあるか、(5)判決又は仲裁判断をもらったときの執行の可否、(6)外国で手続をする場合の外国弁護士費用等と日本の弁護士費用等との比較、といったものでしょうか。


 (1)につき、契約で仲裁条項がある場合は、任意交渉又は仲裁、ない場合は、任意交渉又は訴訟というのが基本パターンですね。従前の交渉経緯から、任意交渉に意味があると言えるかどうかという点を考えるのは、日本でのもめ事と同じですが、加えて外国の会社相手ですと、その国の実情を加味します。例えば、多くの国では、任意の交渉では、何の「脅し」にもならず、裁判をしてきて初めて、相手がマトモに取り扱ってくれるということがあるのです。外国会社ですと、むしろ裁判をしないことがマイナスになる場合だってあります。裁判しないと担当者ベースでしか話が進まず、上の決済が出ないということだってありますが、裁判で上の決済が出てあっさり払われるということもあります。


 (2)は、皆さん考えることだとは思いますが、色々な要因があって、結構複雑になることがあります。
 まず、日本の裁判所に管轄があるかないかを決める日本の法律は、実はありません(いま制定作業中ですが)。契約関係があれば、どこに管轄があるのかということは、決められていることが多いですが、不法行為で、かつ、日本の外で発生するような場合は、なかなか厳しい場合もあります。
 他方、日本に管轄があっても、準拠法が日本法ではないこともあるし、日本に管轄がなくても、準拠法が日本法となることもあります。当事者が日本法を準拠法とすることを合意していても、他国の法律によりそれが排除される可能性もあります。例えば、中国で合資会社合弁会社)を設立する契約は、中国法上、中国法を準拠法としなければいけません(中華人民共和国最高人民法院関于審理渉外民事或商事合同糾紛案件法律適用若干問題的規定」第8条)。もっとも、かかる中国法上の定めが、日本の裁判所で日本法が準拠法であると判断される場合にどのように考慮されるのかというのは別段の問題があります。


 (3)は、(4)とも密接に関係します。外国会社が、外国法を設立準拠法として設立されているが、日本で継続取引を行っているにもかかわらず、外国会社登記を行っていないことがあります。この場合、日本における代表者が、会社と連帯して債務を弁済する義務を負います(日本会社法818条)。外国会社としては資産が日本になくても、その代表者が日本でそれなりに資産があるとすれば、執行の関係から日本で訴訟を行うメリットがあります。
 また、日本で登記を行っていれば、日本の法務局で資格証明書を取得できる訳ですが、日本で登記がなければ、外国で資格証明書を入手しなければなりません。これが、国によって容易だったり、難しかったりします。ネット上で簡単に何でも、クレジットカード1つで取得できる国もありますし、私では無理で、現地の人間に依頼しなければ取れないこともあります。また、日本の裁判は日本語でやりますから(日本裁判所法74条)、翻訳が必要で、英語や中国語で出てくれば私が翻訳できますが、他の外国語でしか出てこない場合は、難儀します。


 (4)資産がどこにあるか、と(5)執行の問題も密接に関係します。
 資産がある国で執行するに決まっているからです。
 日本に資産があって日本で執行するとなった場合、どこで裁判をすれば良いか、の問題は、日本民事訴訟法118条各号の要件に当てはめて考えると、分かりやすいです。
 例えば、米国でPunitive damage(懲罰的損害賠償)を認めてもらっても、資産が日本にあるという理由で、その判決を日本で執行する際に、これが日本の公序良俗に反するとして、日本民事訴訟法118条3号の要件を満たさず、執行判決(日本民事訴訟法24条)を受けることができず、日本で執行できないという問題があります(最判平成9年7月11日)。中華人民共和国の判決はそもそも日本で相互の保証がなく執行できないという問題もあります(日本民事訴訟法118条4号、大阪高判平成15年4月9日)。後者に関係しては、仲裁であればどうか、という問題もチェックしなければいけません(日中間は仲裁ならOK)。


 (6)費用の問題は、結構頭が痛いです。
 日本でやる弁護士費用と比較して、外国で訴訟なり仲裁なり執行手続きをやるとなると、非常に高い弁護士費用等費用を依頼者が負担しなければならないことが多いです。特に米国のように、裁判でディスカバリー手続があると、日本の訴訟とは比較にならない時間を要しますので、えらいことになります。私は、米国で依頼者が訴訟をし、または訴訟を受けるという場合は、1件5000万円程度は弁護士費用がかかることを覚悟するように言うようにしています。そう、今回は訴訟をする側の話をしましたが、米国で訴訟を提起されてしまうこと自体が、たとえ本案で勝訴するとしても、極めて極めて大きなリスクになるのです。その関係で、相手方に米国でPiercing the Corporate Veil(法人格否認)の法理を使われて、米国子会社相手の事件なのに、日本の親会社も訴訟に被告として巻き込まれ、ディスカバリー手続でえらい苦労するという場面をたびたび目にしますので、日本企業が米国子会社を持つ場合は、日本親会社が、日本弁護士を有効活用してAttorney-client Privilegeにより証拠開示の範囲を可能な限り小さくするという作業をやっておられるか、おられないかで、将来の何億円ものお金の行く末が変わっていくことを実感します。



 色々なことをざっくり書きましたが、外国会社を訴えていくというのは、本当に、なかなか大変な作業です。企業でこれを実感していらっしゃる方は、恐らく私が上述した一文一文で、ああ、あのことと思うでしょう。そして、一番良いのは、外国会社を訴えるようなことがないように、契約等で工夫するということでしょう。そのために、あんまり弁護士費用をケチらないでね(苦笑)。