藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

思い描く事務所像


 京都に戻ってきました。
 今月の外弁委員会では諮問の主査に当たっているので、審査書類を読んで主査メモを作成しました。
 主査メモは、外弁委員会での外国法事務弁護士申請の資格審査の基礎となるメモであり、申請人が法の定める積極要件・消極要件をそれぞれ充足しているのか、個別に検討した書面となります。近時、(恐らく外弁に興味のない方は全くご存じないでしょうが)「第二次会長レター」が出されたこともあり、外資系法律事務所のシニアアソシエイトであっても、外弁申請をすることが増えてきました。また、パートナークラスの申請が早くなった感じがします。2〜3年日本に定着して、まだ居そうだったら申請するというルーズな運用は、どちらかといえば、日弁連のルーズな運用によってもたらされたものであった気がします。その証拠に、中国でそんなルーズなことをする外国の事務所は皆無です。


 メモが完成したところで、も1度ブログでも書いてみたくなり、少し書き込みを。
 

 なかなか同じ事務所の弁護士さんに理解して貰えないですが、最近、自分が築きたい法律事務所の像が、なんとなくイメージできるようになってきました。


 私の日本資本の法律事務所(ここでは、「日本の法曹資格を有する弁護士が主として経営し、かつ日本を地理的発祥とする事務所」と定義します。)に対する不満、それは自らの所属事務所でもそうなのですが、日本企業がこれだけ海外で活躍しているのに、一緒に外国に出て行ってリーガルサポートをしようとしないことです。日本の構造的不況が叫ばれる中で、このまま法律産業だけ、国内に残っていたら、法曹のすそ野は広がらないばかりか、外国からやってくる外資系法律事務所が、海外・国内の両方のサービスを提供できるために、日本の依頼者も外国の事務所に移ってしまう、その危機感が私にはあります。


 日本資本の法律事務所は、2009年3月末現在、中国に13事務所(北京6箇所、上海8箇所、大連1箇所、シンヨウ1箇所の合計16箇所。但し、3事務所が複数拠点を持っている)ありますが、他国にはほぼ皆無だと思います(タイなどに例外はありますが)。つまり、法律サービスの後進国以外では、日本の弁護士事務所が出ていっても、日本の企業に相手にされていないという現実です。そうであれば、中国が法律サービスの相対的先進国になったら、中国でも仕事がなくなる可能性があります。


 何故、日本資本の法律事務所は海外で受け入れられていないのでしょうか。理由はいくつもあると思いますが、外資系事務所を見ていて思うのは、結局のところ、日本人以外の弁護士と一緒にパートナーシップを組んで、日本発祥であるが「世界資本」の事務所にしていないことが原因であると思います。外国資本の事務所は、なんだかんだ言って、他国の法曹を取り込み、それによって現地でのリーガルサービスの提供を可能としています。日本資本の法律事務所も、現地弁護士を取り込めなければ、なかなか現地サービスの提供において、現地事務所と張り合えないでしょう。


 私が法曹人口の増大を支持するのは、こういう現状の打破に繋がるのではないかという期待です。私の事務所にも、是非、他国(日本以外)で生まれ育った、他国の弁護士が多く参画し、かつ、その一定割合は、日本の法曹資格を有する、という状況になってくれないかなあ・・・そうすれば、日本資本の法律事務所といえども、現地化に成功して、世界をフィールドに戦えるようになるのではないかなあ。。。と思います。


 もっとも、既に多くの巨大法律事務所のあるアメリカでこれが直ちに成功するとは思われませんし、もし短期間にそれをしたいと思えば、既存の外資系事務所とのM&A(合併)しかないと思います。現在の外資系事務所と呼ばれる純粋な日本資本ではない日本の法律事務所の中には、まさにその選択をしたところもあります。それはそれで素晴らしい決断だと思うのですが、1つか2つくらい、日本流のまま真の国際的な法律事務所に育っても良いのではないかと思うのです。


 何故日本流に拘るか。1つは、弁護士報酬の問題があります。
 やはり、外資系事務所の弁護士報酬はかなり高いと思います。時間の使い方が違うので、時間単位報酬(タイムチャージ単価)だけでは分からない報酬の差が生じます。かつて、トヨタが世界で認められたのは、安くて良い車を製造したからであり、世界で認められて以後は、為替の問題もありましたが、決して安くなくても売れる車を製造できるようになりました。売上規模で言えば超一流ではない日本企業が受け入れられる水準の弁護士報酬で、渉外業務を世界で、まずはせめてアジアで提供できるようになれば、良いなあと思うのです。いつも、例えば私自身が香港に居れば、こんなDD費用にならないのに・・・と思ったりするのです。


 ただ、安い報酬(といっても、外資事務所と比べたら安いというだけで、それなりに高いのですが)で海外の良質の弁護士を迎え入れるのは、通常困難です。お金に代わる何かが必要です。
 では何故中国では、比較的できているのか。それは、提携している中国の事務所の弁護士の多くに、日本留学経験があることが原因ではないでしょうか。


 日本の経済成長が期待できなくなる以上、何も「おみやげ」なしで留学しろというのには、無理が生じてくると思います。語弊を恐れずに言えば、かつての中国人は、留学できればどこにでも出ていきましたが、今は違います。私は、そういう彼らに日本の法曹資格を得るチャンスを、なんとか与えられないかと思っています。


 なお、現時点では、中国人を外国の事務所が中国で雇用しても、中国律師として登録することはできません。従って、中国展開については、色々工夫が要ります。その中で、中国の律師さんが日本資格を持つというのは、なかなか面白い展開を生むのではないかと考えています。


 まあ、海外進出をしていない弁護士が言っても、あんまり説得力はないかもしれませんし、多くの先輩方はそう甘くないと仰るので、更に様々な経験を得ながら、考えを整理していきたいと思います。