藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

Chapter 7


 アメリカに子会社があるが、いまの世界経済の状況に照らすと、閉めざるを得ない。
 こういう会社は少なくないのではないだろうか。


 その際の選択肢として、仮に大幅な債務超過であれば、Chapter 7も考慮に入れても良い。


 Chapter 7とは、破産である。そして何故"Chapter 7"というかというと、1つの倒産法の中の「第7章」だからである。今日は(ネタもないし)、米国倒産法の概要をまず述べてみたい。


 米国倒産法は、日本の倒産法と異なり、1つの法律で倒産全分野をカバーしている。従って、「破産法」「会社更生法」「民事再生法」「会社法(特別清算)」といった個別の法律はない。米国倒産法の正式名称は、”Title 11”という(米国連邦法には番号が付されているが、11番ということである)。


 “Title 11”の中は、15章(chapter)に分かれている(2,4,6,8,10,14は欠番)。なお、条文の整数第3〜4桁は、そのまま章を表す(1101条は第11章の最初の規定である)。
1・3・5章が一般的な総則規定である。これらは、公共団体(市や郡)の倒産(第9章)・国際倒産(第15章)を除くそれぞれの個別の倒産手続に原則的に適用される(103条(a))。しかし総則といっても、3章と5章には、後で見るような倒産手続上重要な規定が多く置かれている。


 第7章、即ち"Chapter 7"は、日本でいう破産法に相当する清算型の手続を規定する。法人・個人双方が債務者となることを前提としているが、鉄道会社・保険会社・銀行等は破産申立ができないなど、独特の制約もある(109条(b))。


 第9章は、公共団体(市や郡)による倒産手続であり、基本的に再建型であるが、103条(a)が適用されない結果、第3章、第5章の一部は適用されない。しかし主要な第3章・第5章の条文のほか、再建型倒産手続の基本である第11章の一部の条文も適用される(901条(a))。日本の第3セクターが特定調停を使って銀行団と話し合いをするスタイルや、日本の財政再建団体に適用される再建手続とは大差がある。かつて、1994年にカリフォルニア州のオレンジカウンティーが、このChapter 9を申立したことがある。


 第11章は、日本で言う民事再生法会社更生法に相当する再建型の倒産手続である。Debtor in possession(DIPと略される)と呼ばれる債務者が引き続き経営権を握りながら再建をするという形式が基本とされる(1108条)が、裁判所は、利害関係人からの請求に基づき、告知聴聞を経て管財人を選任することも可能である(同)。なお、日本の民事再生法では、別除権は原則として倒産手続の拘束を受けないが、米国では、DIP型であっても、そうでなくても、担保権を含め、倒産手続の拘束を受け、原則として、担保権者が自由に担保権を処分することができなくなる。なお、債務者適格については。原則として第7章(破産)の債務者と同じであるが、鉄道会社等については、第11章については債務者となることができる(109条(d))。


 第12章は、農業事業者の個人再生手続であり、第13章は給与所得者の個人再生手続である。
 第15章は、国際倒産の手続である。

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 そんな"Chapter 7"をすると、日本の親会社に何か良いことがあるか。
 ほとんど唯一のメリットかもしれないが、日本の子会社を倒産させる時と同様に、申立によって、その米国子会社宛の債権の半分を損金処理することができるという点は挙げられよう。倒産手続が終了すれば、残りも損金処理できる。日本の親会社に利益が出ているなら、これは大きなメリットとなり得る。


 また、親会社が日本で上場等している訳ではないのであれば、日本の子会社を潰してしまうこととの比較で言うと、取引先等に分かりづらいので、風評被害を最小限にすることができるというのも、ある種のメリットなのかもしれない。


 Chapter 11と異なり、Chapter 7は非常に簡素な手続で進行することができる。ある意味、これもメリットかもしれない。
 日本の破産の場合、法人であれば、100万円前後の予納金を要求されることが普通(最近は代表者と法人で併せて20万円前後の予納金で良いという運用も、裁判所によっては可能となっている)であるが、米国の場合、予納金という制度はなく、申立時に300ドル前後の費用を払えば申立可能である。


 元代表者・株主に制裁や拘束はないか。
 元代表者は、申立から20〜40日後に予定される341 meeting(連邦倒産法341条に基づく債権者集会のようなもの)に出席しなければならない。しかしそれが終われば、何か別段の法的な責任(財産を隠したとか・・・)がない限りは、手続に拘束されることはない。会社が普通のCorporationであれば、有限責任であるから、株主である親会社が、持っている株式の価値がなくなるという他に別段の責任を負うことはない。ただ、損害を被った米国子会社の取引先が、"Deep pocket"を狙って、法人格否認法理を使い、日本の親会社宛に訴訟を仕掛けてくる可能性は否定できない。Chapter 7という選択肢を取る際に、できれば、身内以外の債権は整理しておく位の余裕があれば、より安心である。