藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

日本で在日中国人が亡くなったら・・・


 先週の中国法の授業では、親族相続を扱いました。
 その中で、反致について触れたのですが、もともと中国法の授業であって国際私法の授業ではないので、理解して貰いづらかったと思います。


 試しにネットを検索すると、未だに中国の新しい国際私法である「渉外民事関係法律適用法」に適切に言及しているものも多いようですし、授業の補足という訳ではないですが、すこし書いておきたいと思います。


 渉外的な法律問題が生じた場合に、どこの国の法律を適用するのでしょうか。日本の裁判所であれば全て日本法を適用するという訳ではありません。日本の「法の適用に関する通則法」という法律が、そのルールを定めています。


 例えば相続関係では、相続は、被相続人の本国法を適用する(通則法36条)となっています。つまり、日本籍の人が被相続人であれば日本法ですが、外国籍の人が被相続人となれば、外国法を適用するんです。


 ところで、中国の「渉外民事関係法律適用法」によれば、法定相続は,被相続人の死亡時の常居所地の法律を適用する。但し、不動産については、不動産所在地の法律を適用する(同法31条)とされます。


 つまり、遺言のない法定相続に限ると、中国の裁判所は、中国人が日本で亡くなった時に、日本の国際私法〔法の適用に関する通則法〕とは異なり、常居地(日本)の法律を適用し、不動産については不動産が日本にあれば日本法を適用するというのです。


 このように、どちらで裁判が行われるかによって、同じ事実関係を前提として、適用される法律が変わるのは、あまり好ましいことではないかもしれません。そこで、日本の法の適用に関する通則法41条は、次のような規定を置いています。

(反致)
第四十一条  当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)又は第三十二条の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。


 準拠法が当事者の本国法で決まる場合(さきほどの相続や遺言の例は、そうですね)に、その国の法(中国人の場合、中国の国際私法である「渉外民事関係法律適用法」)に従えば日本法によるべき(常居地とか、不動産が日本とかで日本法になりますね)ときは、本国法である中国法ではなく、日本法を適用する、という訳ですね。


 よって、中国人が日本に住んでいて亡くなった場合、その不動産が日本以外の国にある場合を除いては、原則として本国法である中国法ではなく、日本法を適用することになるのです。


 このように、法廷地の国際私法規定によって指定された準拠法所属国の国際私法を適用して準拠法を定めることを「反致」(renvoi)と呼ぶのです。


 因みに、中華人民共和国では、反致という考え方はあるものの、裁判所は反致を認めないとされており、実際新しく昨年できたばかりの「渉外民事関係法律適用法」には、日本の法の適用に関する通則法41条のような反致の規定はありません。この部分は、ある生徒さんの質問が出た時に即答できませんでした(いやー、中国に反致があるのか、という質問がすぐ出るのは素晴らしいことですね)が、そうなっています。


 じゃあ、余談ですが、遺言がある場合はどうなるでしょうか?特に遺留分はどうなるでしょうか?
 日本の通則法では、やはり被相続人の本国法なのですが(通則法37条)、中国ではそもそも遺留分の制度がなく、中国の適用法には、遺留分に関する準拠法の規定がないように見えます。「法定相続」と限定している部分に、遺留分の話も含まれていると解するならば、反致で日本法になり遺留分があることになる訳ですが、中国の適用法には規定がないとなれば、反致が起こらず中国法で遺留分はないことになるのです。私が知る限り、この点について判断した裁判例はないのですが、私が裁判官なら反致しちゃうかなあ・・・。面白そうなので、そういう事件をやってみたいですねえ。