温州新幹線事故について
昨日7月23日の夜8時34分頃、中華人民共和国の温州南駅を遅れて出発したD3115号動車(中国版新幹線)が、落雷に打たれて停電・停車していたところ、後ろからやってきたD301号動車(中国版新幹線)が追突し、多数の死傷者が発生しました。
200名以上が亡くなったとの報道もあります(全体の報道を見ているとそこまでではないようですが、それでも40名前後の死者が出たようです)。まずは、犠牲者の皆様の冥福をお祈りします。
なお、この路線は、最近開通した北京と上海との間の新しい新幹線の路線とは別の路線です。事故に遭った新幹線はいずれも、ドイツ系の技術を前提とした動車で、最高速度は250km/hであり、最高速度が速すぎたということが原因ではありません。
この事故については、色々言われていますし、今後も言われるでしょうが、私は法律家として、1つ皆様に関連する法令をご紹介して、中国版新幹線に乗るか否かを決めて頂く資料にしたいと思います。
今回の被害者には、外国人も含まれていたようですが、じゃあ一体どのように損害賠償請求することになるでしょうか???
これについて基本的な原則を定めているのは、中華人民共和国鉄路法です。
http://www.gov.cn/banshi/2005-08/23/content_25603.htm
まず、不可抗力による事故の場合は、鉄道運輸企業の免責が規定されています(同法18条1号)。今回は、雷という自然現象が発端となっているので、この適用が認められるか否かが第一に問題になります。もっとも、雷で不可抗力だとされてしまうと、困ってしまうのですが。
次に、不可抗力が認められない場合でも、損害賠償額の上限が認められる可能性があります。同法で死亡事故の場合についての明確な定めはないのですが、国務院の定める行政規則である鉄路交通事故応急救護和調査処理条例(2007年9月1日施行)の32条は、明確に、人身死亡・傷害の場合に、鉄道運輸企業が損害賠償義務を負うと来て居しつつも、同33条は、15万人民元という上限を定めています(荷物については、別途2000人民元)。つまり、中国の鉄道事故で死んでも、どんなに頑張っても中国ではおよそ200万円前後の補償しかされないということになります。
http://www.gov.cn/zwgk/2007-07/19/content_690241.htm
なお、同条例施行前の上限は、それぞれ4万人民元、800人民元でした。(1994年に国务院の公布した「鉄路旅客運輸損害賠償規定」をご参照のこと)
中国の経済的地位の上昇に伴い、損害賠償の改善はされていますが、200万円で制限されることは、国際的に見ても妥当とは言えないでしょう。因みに、中国国内の飛行機事故にも類似の損害賠償額の上限規制がありますので、注意が必要です。
因みに、33条2項には別途これを超える損害賠償額を書面で定めることもできることも規定はされていますが、私はそのような合意を知りません。あるんですかね。
なお、このような場合の時効ですが、民法通則136条1号の規定により1年となる点にも留意が必要です(中国は普通2年なので、短期消滅時効ということになります)。
更に更に、仮に上限がなかった場合も、逸失利益について中国では、日本と異なり、当該事故地の平均収入を基礎として算定することが基本となる点も大きく異なります。この点にも留意しなければならないです。
・・・こういう制度だから中国がダメだとか、中国に行くなというつもりはありません。中国には素晴らしいところも沢山ありますし、私はこういう点を知りながらも大好きなのです。中国のこういう点も知って頂いた上で、自己防衛して中国と付き合いをするのが、重要だと思います。