若き法曹のために、外弁規制をかみ砕いて説明しよう。(1)外弁って?
本当は仕事に力を注ぐために日曜日の午前中を使っていたのですが、ツイッターを見ていると、あまりに若い人がTPPやら外弁規制について無知なので、怖くなってきて、ここに私の理解をかみ砕いて説明することに時間を使ってみようと思います。
この文書の読者は、日本の弁護士・ロースクールの学生・企業の法務担当者を想定していますが、それ以外の法律に興味がある方も読んで見て下さい。但し、法律についての素人はあまり想定していませんので、やや難しい内容があってもご容赦下さい。
皆さんは、弁護士の向日葵バッチ、見たことありますか?
実は向日葵バッチって、二種類あるの知っていますか?
うん、金製と金メッキ製でしょ?
違う違う、確かにその違いもありますが、もっと本質的な違いです。大きさが違うのがあるんです。
ちょっと大きめの、弁護士用のバッチと、ちょっと小さい外国法事務弁護士用のバッチです。どちらも日弁連及び単位会(大阪弁護士会や東京弁護士会)の会員になります。
弁護士は、弁護士法3条によると、次の内容を職務としています。
弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
つまり、訴訟や非訟といった手続だけでなく、「その他一般の法律事務」を職務としています。法律事務がどこまで含まれるかについては、争いがあります。何故争いが生じるかと言えば、次の条文があるからです。
第9章 法律事務の取扱いに関する取締り
第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。
第74条(非弁護士の虚偽標示等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならない。
2 弁護士又は弁護士法人でない者は、利益を得る目的で、法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示又は記載をしてはならない。
3 弁護士法人でない者は、その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用いてはならない。
つまり、弁護士には、「法律事務」の独占が認められるので、行政書士、司法書士、弁理士、税理士、社会保険労務士など、法律隣接職は、それぞれの業法で弁護士法72条の例外として認められているもの以外については、「法律事務」を行うことができません。そこで、弁護士は「法律事務」を広く解釈して、他士業が職域を侵入しないように主張し、他士業は狭く解釈して、弁護士の職域に侵入を試みる訳です。
外国弁護士も、外国法事務弁護士も、「弁護士」ではないので、この弁護士法72条の規制は、法が例外的に許容しない限り、我が国では受けることになります。
では、外国弁護士と外国法事務弁護士とは、一体何者でしょうか?
ここまで正しく理解して貰えたら、今回のエントリーを終えようと思います。
外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(以下「外弁法」といいます。)の第2条第2号と第3号に、両者の定義が置かれています。
二 外国弁護士 外国(法務省令で定める連邦国家にあつては、その連邦国家の州、属地その他の構成単位で法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)において法律事務を行うことを職務とするもので弁護士に相当するものをいう。
三 外国法事務弁護士 第七条の規定による承認を受け、かつ、第二十四条の規定による名簿への登録を受けた者をいう。
つまり、外国弁護士とは、外国(例えばニューヨーク州とか、中華人民共和国)の弁護士に相当する資格(Attorney-at-lawとか、律師とか)を持っている方のことを言い、外国法事務弁護士とは、その中でも、法務大臣が我が国の外弁法の所定の要件を充足することを認め承認し、かつ、日弁連の名簿に登録されている方のことを言う訳です。
言い換えれば、外国弁護士とは、外国(原資格国)において資格を持つ者であり、外国法事務弁護士とは、その中でも、我が国において資格を認められた者ということができます。
逆に言えば、外国弁護士は、我が国では何ら資格が認められないので、弁護士法72条によって「法律事務」を行うことは一切認められていません。「ニューヨーク州弁護士」だろうが「中国律師」だろうが、資格を持っていることは事実なのでOKですが、クライアントに対して、例えニューヨーク州法や中国法の内容であっても、我が国で法律事務を行ってはいけないのです。
私が所属弁護士法人で中国律師を雇用していますが、彼女は外国法事務弁護士ではないので、当然彼女にはクライアントに直接に法律事務を提供することはしていません。彼女にはそれだけの能力がありますが、全て私に対する労務提供しかさせていません。この規制があるためです。
他方、外国法事務弁護士は、外弁法によって弁護士法72条の例外が認められているので、その範囲では、クライアントに対し法律事務を行うことができます。
では、どうすれば外国法事務弁護士になれるのでしょうか。その許されている法律事務の範囲はどこまでなのでしょうか。次のエントリーで述べてみたいと思います。