藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

米国連邦倒産法第7章


 時代はアジアへ移りつつありますが、米国の子会社は、どう管理されていますか?


 米国の子会社が利益も出していないのに活動していると、米国で何かのついでに訴訟され、その親会社も「ついで」に被告とされる。この親会社に対する訴訟は、何にも法的根拠はない、せいぜい法人格否認くらいしかないのですが、それでも被告とされると、motion to dismissを出すとしても、ホンマに法人格否認が成立しないか否かについてディスカバリーとなって、莫大な弁護士費用がかかる・・・という悪魔もあります。


 確かに累積損失が溜まってきている。親会社貸付も返済の見込みもない。では、米国子会社を閉鎖しようか、と思う時に、通常清算の形式で閉鎖するか、それとも法的清算を行うか、迷うことがあるかもしれません。


 通常清算の方が、勿論インパクトは小さいのですが、子会社の管理が十分ではない場合には、実は隠れていた債権があったりして、予想外に費用を要するという場合も、ないとはいえません。また、貸倒の処理について、一般には問題ないと思われますが、しかし外国のことですし、最終的な損金処理について疑義があるケースもあるでしょう。


 そこで、米国連邦倒産法第7章の規定する、破産手続を活用することが考えられます。


 破産の申立は、所定の書式に債権や債務の明細を作成して行うことになります。また、申立は、通常米国の代理人弁護士を選任して行います。申立先は、連邦倒産裁判所です(州の裁判所ではありません)。


 申立をしてから最初に元代表者が手続に直接関与するのは、341 Meetingと呼ばれる集会です。連邦倒産法341条に規定されている集会ですので、341Meetingと呼ばれます。連邦倒産規則2002条の規制により、招集には20日以上の期間を空けたnoticeが必要とされていますので、最短でも申立から20日以上の期間が空けられます。私の経験上は、だいたい申立から40日程度空いて開催されることが多いです。この集会は、US Trusteeと呼ばれる者が招集しますが、裁判所は直接関与しません。大抵は裁判所のすぐ近くの建物で行われたりします。そして、管財人(Trustee。前述のUS Trusteeとは別の機関)が、債務者の代表者に口頭で、疑問点や経緯について質問します。この341Meetingを乗り切れば、元代表者がこの手続で再度米国に行く必要は、通常はありません。


 債権届出は、通常申立から3ヶ月〜5ヶ月程度の期限を区切って行われます。その後、認否が行われます。他方財産換価は随時行われます。


 債権が確定し、換価も終了すると、管財人は、管財人最終報告書(Trustee Final Report。よく"TFR"と略される。)を作成してUS Trusteeに提出します。前後して、会計士などの専門職費用を支払っても良いかという申立(Application for Professional Compensation)も行われます。この管財人最終報告書は、US TrusteeのReviewを経て、債権者にも発送されます。この中に、換価の経緯と、債権の分配案が記載されています。この案に異議がある債権者は、送達から20日以内に異議と、ヒアリング開催の申立をすることになっており、その異議と申立がなければ、分配案が確定し、管財人は、具体的に管財人最終報告書に基づき配当を実施します。


 配当実施後、管財人は再度、管財人配当報告書(Trustee Distribution Report。よく"TDR"と略されます。)を作成してUS Trusteeに提出します。US Trusteeが管財人配当報告書をレビューし終えると、管財人の任が解かれ、またケースがクローズされます。


 この過程に、それ相応の時間を要しますが、かかる法的倒産手続をすれば、債権額の1/2が申立時に、出資額の全額と債権額の残余から配当額を控除した残余が、遅くともクローズ時に、損金算入することができます。


 後者の点について根拠を示すと、まず、法人税法基本通達9−6−1は,「会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画認可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定があった場合,会社法の規定による特別清算に係る協定の認可の決定があった場合」について,これらの手続により切り捨てられることとなった金額について,その決定の日に貸倒れとして損金の額に算入することを認めます。しかし,破産手続については定めがありません。

 しかし,「回収不能の金銭債権の貸倒れ」については,別途9−6−2に規定があり,「法人の有する金銭債権につき,その債務者の資産状況,支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には,その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において,当該金銭債権について担保物があるときは,その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。」との規定があります。

 この点,国税不服審判所が,「破産手続終結の点」において損金の額に算入するとした事例があります。しかしこれは国内の破産手続の場合であり,配当がない場合において,法的には管財人が何ら証明を出すことが予定されておらず,配当がないことは,破産会社の法人登記が閉鎖される,破産手続の終結決定が出る等によってしか知ることができないことを前提としているように思われます。米国倒産法第7章のように,管財人により,TFR→配当→TDR→クロージングという一連の流れによって,手続が終了することが明らかとなる場合においては,クロージングより前であっても,例えば配当の完了時に残配当がないことは明らかとなると思いますので、その時点で損金算入が認められても良いように思います。この実益は,実は管財人がTDRを提出しても、US Trusteeが忙しいためにレビューが終わるまでに時間を要して、次の決算期になって初めてクローズされた場合に、前期のうちに損金算入して良いかという点で具体的に問題となります。


 長々と書きましたが、米国の訴訟手続と異なり、米国の倒産手続は、日本の倒産手続と比して特段に複雑怪奇ということはなく、我々日本の倒産手続を知っている者に馴染みのある制度だと思います。私も、何度か米国連邦倒産法の手続をサポートしてきました。もしも、米国子会社等を連邦倒産法第7章の手続で閉鎖し、確実に損金処理をしようとお考えであれば、一度お尋ね頂けますと幸いです。