讀賣・ナベツネ氏vs清武氏 訴訟の争点


 デイリースポーツ2011年12月14日付電子版

巨人の球団代表兼ゼネラルマネジャーを解任された清武英利氏(61)は13日、巨人と読売新聞グループ本社渡辺恒雄球団会長(85)を相手取り、総額6220万円の損害賠償と謝罪広告を求め、東京地裁に提訴した。清武氏はコーチ陣をめぐる対立から、会見で渡辺会長らを批判。読売新聞グループ本社と巨人は、清武氏に対して、名誉毀損(きそん)などで5日に総額1億円を求める提訴に踏み切っていた。

 全面戦争開始だ。「巨人は渡辺恒雄氏の私物ではなく、コーチや選手、多くのファンのものだ」。都内の会見で清武氏は、そう宣戦布告した。

 清武氏は、来季の岡崎ヘッド留任を渡辺会長へ報告し、了承も得たが、CS敗退後に同会長が江川卓氏の起用で一方的に覆そうとしたと先月11日に記者会見で告発。同18日に解任され、今月5日には総額1億円の損害賠償訴訟を起こされた。


 昨日、清武氏が訴訟を提起したということで、双方が訴訟を提起したことになります。「最高級弁護士」10名を用意した讀賣・渡辺氏側と、訴状に同じく10名の弁護士を連ねた清武氏の法廷闘争は、面白おかしく書かれるでしょうが、法的に見たらどうなのでしょうか。


 丁度、今日の同志社大学法科大学院の私の授業で、取締役の解任に関する点を述べましたので、いくつかある論点のうち、清武氏による、(取締役を務めていた)巨人軍を相手とした訴訟における、役員報酬相当額の損害賠償請求の可否について、多少論じてみたいと思います。


 そもそも、会社は、いつでも、いかなる理由によっても、株主総会の普通決議により、取締役を含めた役員等(取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人)を解任することができます(会社法339条1項)。しかし、そうしますと、役員等としましては、期待していた報酬が貰えなくなります。そこで法は、解任された者について、「その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。 」と規定しました(法339条2項)。これは、規定の体裁からしても、会社の抗弁事由とされています。


 つまり、本件において、(i) 清武氏は、法339条2項に基づき、役員報酬等取締役として解任されなかったならば得られたであろう利益について、請求する権利が存在するが、(ii) 会社が、「解任について正当な理由」があることを主張・立証することに成功した場合に限り、その権利が認められない、という構造になっています。


 では、会社は、清武氏解任について、「正当な理由」があるのでしょうか。


 予想される会社の主張は、
(1)清武氏が、江川氏を招聘する等の会社の営業上の秘密を記者会見を開催して暴露したことにつき、取締役の善管注意義務・忠実義務に違反する。
(2)清武氏が、渡辺氏や讀賣グループ、巨人軍の社会的評価を低下させ、名誉毀損又は信用毀損行為を行っており、これは不法行為(法709条)に該当し、仮に不法行為には至らないとしても、取締役として著しく不適切な行為を行っている。
(3)清武氏が、巨人軍の大株主である讀賣グループの意向を無視した言動を繰り返しているため、取締役に不適任である。
といったものでしょうか。


 過去の判例に照らしますと、このうち、(3)については、恐らく「正当な理由」ありとは認められない、つまり、これを理由として巨人軍は、清武氏の請求を拒めないと思われます。

 例えば、大阪高判昭和56.1.30は、代表取締役を除く全取締役の決定に基づき代表取締役に態度改善の要求をしたところ、原告が会社を乗っ取ろうとしていると曲解されて解任されたのですが、この解任には、「正当な理由」がないとされました。東京地判昭和57.12.23は、原告が会社内で代表者と折り合いが悪くなったために孤立し、解任されたのですが、性格・行状に勤務を継続できない程の特段の問題点はなかった場合に、「正当な理由」なし、とされています。また、名古屋地判昭和63.9.30は、事前に大株主に相談することなく株主割当による新株発行を実施するなど、大株主の信頼感を失わせる言動があったことは認められたのですが、これにより取締役ないし監査役の適格性を欠き、客観的に職務遂行が不可能となるような障害があったとは認められないとして正当理由を否定しています。

 要するに、主観的な信頼関係喪失、大株主の好みや、より適任の者がいるという理由で解任することでは、「正当な理由」ありとはならないのです。


 しかし、「正当な理由」は、なにも、法令定款違反がなければならない訳ではないのです。(1)や(2)が成立する場合は、たとえ清武氏の行為が、法令定款違反とまでは断じられない(つまり、讀賣・渡辺氏側の請求が認められる程度までには至っていない)場合であっても、清武氏の請求は棄却される可能性があります。ただし、問題は、清武氏の行為が、問題のある行為だったのか、という点です。


 例えば、(1)につき、営業秘密の漏洩、ということであれば、江川ヘッドコーチという人事案が、非公知で、有用で、秘密のものとして管理されていたという営業秘密の3要件を充足するのか、という問題があります。

 また、讀賣や渡辺氏は「公人」ですし、仮に、清武氏摘示の事実関係が営業秘密ではない事実(真実)又は事実らしい事情であるということであれば、(2)名誉・信用毀損と言えるような言動ではない、となる可能性もあります。


 記者会見をして内紛を外に暴露する行為は、株主である親会社・讀賣からすれば良いことではないと思います。しかし、清武氏は巨人の代表者であったという訳ですから、原則として、誰をヘッドコーチにするかについて最終的な決定権限があった筈であり、それが株主から、巨人の内部ルールによらない違法ではないが不当な圧力によって曲げられようとしている、しかもその圧力が非常に強いものであるという場合において、これを開示するという「経営判断」は、巨人という会社の取締役が行うという点において、結果として仮に誤りであったとしても、あり得るのではないかと思うところです。


 なお、「経営判断」原則についての諸判例の射程が、法339条2項の損害賠償請求まで保護する(「正当な理由」なしとする)に至るか、については、学説上は争いがあり、下級審においてこれを否定する事例(結果責任による解任に正当な理由があるとする判例=広島地判平成6年11月29日)もありますが、通説とは言えないと思います(例えば江頭先生は反対)。


 その他の「正当な理由」ありと認められた有名事例を拾っていきますと、例えば、何ら法令定款違反はないのものの、心身の故障があり、客観的に職責に堪えられないような事例(最判昭和57.1.21〜福岡小型陸運事件)、会社の監査役が税務処理で明らかな過誤を犯して損害を与えた事案において、監査役として不適任として解任の正当事由を肯定した事例(東京高判昭和58.4.28)があります。この2例と比較すると、清武氏には、客観的な心身の故障があったり、明らかな過誤を犯した訳ではないので、これらの事例のようにはいかないでしょう。


 事実関係が明白ではないので、何とも言えないですが、清武氏の上記損害賠償請求(会社法339条2項)については、認められても、認められなくても、びっくりはしないという点において、面白いですし、恐らく司法試験受験生にとっては、将来のこの論点のリーディングケースとなるであろうという点において、注目すべき点があると思います。