「法曹不人気」報道は正当か?
明日9月10日、司法試験は合格発表です。
しかしここ数年、司法試験に合格して法曹を志願する人は大きく減っています。
例えば、今年の司法試験は、10,315人が出願し,実際に授権したのは7,653人でした。これをここ数年で比較しますと・・・
表1:司法試験出願者・受験者数の推移
年 | 出願者 | 受験者 |
2013 | 10,315 | 7,653 |
2012 | 11,265 | 8,387 |
2011 | 11,891 | 8,765 |
2010 | 11,127 | 8,163 |
2009 | 9,734 | 7,392 |
となります。
ナンだ、余り減っていないじゃないか?と思われるかもしれませんが、現在の司法試験は2006年にまず既習者(2年コース)のみでスタートし、2007年に初めての未修者(3年コース)が受験し始めた試験です。不合格者は5年で3回まで受験できますので、当初の数年は不合格者が2度、3度と受験する結果として当然に出願者・受験者が増大します。そんな中で、2年連続大きく出願者・受験者が減少したのは、やはり大きなことなのです。
更に、現在の司法試験は、予備試験合格者を除いては法科大学院を卒業しなければ受験資格が得られませんが、法科大学院の不人気は、更にすさまじいものがあります。
表2:法科大学院入試出願者・受験者・入学者数の推移
入学年 | 出願者 | 受験者 | 入学者数 |
2013 | 13,924 | 12,389 | 2,698 |
2012 | 18,446 | 16,519 | 3,150 |
2011 | 22,972 | 20,497 | 3,620 |
2010 | 24,014 | 21,319 | 4,122 |
2009 | 29,714 | 25,804 | 4,844 |
法科大学院に入学した2〜3年後に司法試験初受験になるのが通常ですので、この5年で出願者が半分以下、入学者も5割強まで減った影響は今年はまだ限定的で、これから数年後に強く表れることになります。実際、法科大学院で教えていて、学生が変わったなあ・・・と感じることは少なくありません。 このような法科大学院不人気・法曹不人気は、私が感じる限り、これをサポートする報道によって生まれたように思います。 確かに、司法制度改革の中で、弁護士数は増大しました。私が弁護士登録をした2001年、18,000人程度であった我が国の弁護士総数は、司法試験合格者数の増大にあわせて、2012年には32,000人程度まで増大しています。当然、弁護士間の競争は激化していると言えます。そして、一部には、「弁護士の年収200万円」といった刺激的な報道もされています(例えば、http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130906-00500007-sspa-soci)。 ただ、各種報道は、面白おかしくされている面が少なくありません。裁判の件数が増えていないことも報道されていますが、しかし法曹の役割は裁判の件数のみで測れるものではなく、その役割そのものは、2001年と比較してもむしろ拡大していますし(例えば、刑事弁護における裁判員裁判の導入、被疑者国選弁護制度の導入。私の専門とする渉外(国際)弁護士業務の拡大。)、例えば「リーガルハイ」等、テレビドラマで法曹が扱われることも増え、昔よりも若干は身近な存在になっていると思います。競争で厳しい弁護士がいるのは事実でしょうし、実際弁護士事務所の経営難で横領した弁護士が逮捕される事例も報道されていますが、しかし、どの世界にも競争があるのが普通・普遍であり、全体から見れば、「美味しい」思いをすることは少なくなったとしても、法曹の業務自体のやり甲斐や、需要・期待が減少したとは言えないと思います。 気がかりなのは、法曹の不人気により何が人気になったかという学生の動向です。ある大学では、法曹志願者減がそのまま国家・地方公務員の志願者増につながっているそうです。公務員も大事な仕事ですし、これを悪く言うつもりはありませんが、こういう安全志向では、世界的な競争に曝されているこの国を守り・勝ち抜くように育てていくことはできないでしょう。 もっと、本質的な仕事の楽しみや、やり甲斐などで学生が志望先を選ぶようにして貰いたいし、そういう報道が欲しいです。原発事故や、健康被害で「安全志向」になるのは結構ですが、職業についてまで皆が「安全志向」になってしまったら、この国はむしろ大いに「危険」な国になってしまいかねません。 法曹の仕事は、様々なネガティブな報道にもかかわらず、とても楽しくやり甲斐のある仕事ですし、その期待は増大しています。実際私がそう感じて業務ができている訳で、もっと多くの方に志願して貰いたいなあ、そう思う次第です。