藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

広島の大雨災害に関する法律Q&A


 私をはじめとした弁護士法人淀屋橋・山上合同の有志で、東日本大震災の発生後ただちに「震災の法律相談Q&A」(民事法研究会)を出版し、かつ、この出版内容をそのまま事務所HPに掲載しています。

http://www.yglpc.com/contents/qa/topics/earthquake/index.html


 よく考えると、広島の大雨(以下「本災害」といいます。)に関する各種の公的支援や法律問題について、このQ&Aの全部ではないですが、そのまま、または概ねそのままあてはまる問題が沢山あることに気付きました。

 私ができる支援といえば、弁護士ですし、やはりこういう法的情報の提供ですよね・・・。


 事務所HPの読み替え(あくまで東日本大震災を想定して記載)が必要ですが、以下、本災害にあてはめた場合にどうなるかについて、少し記載したいと思います。

(免責事項)
 なお、迅速性と全体についてコメントをすることを重視し、思いつきでざっと調べて記載していますので、間違いの可能性があると思います。この点はご容赦下さい。情報提供等お願いします!


【第1章 災害に関する法律】

Q11〜17 災害救助法 本災害においても適用
⇒避難所の設置等は本法に基づき行われました。今後、仮設住宅の設置等が行われる可能性があります。

Q18〜30 被災者生活再建支援法 本災害においても適用
http://www.bousai.go.jp/kohou/oshirase/pdf/20140821-4kisya.pdf
http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/0000000000000/1201565014314/index.html
⇒住宅の被害が生じた場合に公的な支援金が受けられます。

Q31〜33 災害弔慰金の支給等に関する法律 本災害における適用は未確認
⇒死者の遺族に対し災害弔慰金の支給が受けられるのですが、私のニュースの確認が悪いのか、現時点では支給は決まっていないと思います(過去の例からすれば可能性があると思います)。


【第2章 不動産(1)】

Q1〜16 借家
※本災害に対し適用するに際しては次の点に留意されたい。
(1) 罹災都市借地借家臨時処理法の適用はいまのところない(例えばQ2は本災害無関係)。
(2) Q10にあるような「指針」は本災害に関し出されていないが、「指針」は本来法的拘束力はないため、具体的行動において、参考にすることはできる可能性はある(具体的対応については原則を踏まえよくお考え頂きたい。)

Q17〜33 借地
※本災害に対し適用するに際しては上述のとおり罹災都市借地借家臨時処理法の適用はいまのところないという点に留意されたい。


【第2章 不動産(2)】
Q34〜38 マンション
※本災害に対し適用するに際しては、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の適用はいまのところないという点に留意されたい。

Q39〜48 土地建物所有権 おおむね本災害にもあてはまる。


【第3章 不動産以外の財産権】
おおむね本災害にもあてはまる。ただし、本災害においてはQ2に記載したような「預金証書、通帳等を紛失した場合でも預金者であることを確認して払戻しに応ずること」等の措置や、Q3で記載したような被災者の預金公表制度等は公表されていない。また、Q5Q6記載の手形小切手に対する措置も公表されていない。


【第4章 取引】
おおむね本災害にもあてはまる。ただし、本災害においては、Q24記載のような「総量規制」の緩和や、Q29、30等に記載した「東日本大震災復興緊急保証という信用保証制度」等の特別措置は公表されていない。


【第5章 不法行為
Q1〜7 一般不法行為
おおむね本災害にもあてはまる(地震を土石流等に読み替える)。なお、Q6記載の「指針」又はこれに類似するものは本災害では公表されていないが、「指針」は本来法的拘束力はないため、具体的行動において、参考にすることはできる可能性はある(具体的対応については原則を踏まえよくお考え頂きたい。

Q8 基本的に本災害にあてはまらない。

Q9〜10 国家賠償責任
本災害にあてはまる可能性がある(緊急の対策ではないと思われるので、その適用については慎重に検討する必要があろう)。

Q11〜22(原子力損害) 本災害にあてはまらない。


【第6章 会社法金融商品取引法】 
おおむね本災害にもあてはまる。但し、Q4記載の「特定非常災害特別措置法2条1項、平成23年東北地方太平洋沖地震による災害についての特定非常災害およびこれに対して適用すべき措置の指定に関する政令」又はこれに類似する政令は出ていないので、有価証券報告書等の提出遅延については、原則通り対処する必要がある。


【第7章 労働(1)】
Q1〜5 震災被害と労災・通勤災害
Q6〜13 従業員が出勤できない場合
Q14〜20 休業手当
Q21〜22 復旧作業・支援活動
Q23 給与の支払義務
おおむね本災害にもあてはまる(Q11・Q19記載の計画停電は予定されていない、Q14記載の「東日本大震災に伴う雇用保険失業給付の特例措置」の適用はない、各種の特別立法・政令はない等の読み替えは必要である)。


【第7章 労働(2)】
Q24〜27 雇用調整助成金
Q25・26はあてはまらない。Q24とQ27の(1)(地震⇒大雨・土石流等に読み替え)は本災害にもあてはまると思われるが、ウェブサイト記事の執筆日以後に制度変更があるため、最新の情報を確認されたい(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html)。

Q28〜32 解雇・内定取消
おおむね本災害にもあてはまる。但し、Q29記載の「東日本大震災に対処するための特別の財政援助および助成に関する法律(平成23年法律40号)」第82条による、雇用保険の基本手当の給付日数の特例はない。その他、震災の際の特例等はない。

Q33〜35 その他 Q33、34は本災害につき適用なし。Q35は本災害にもあてはまる。


【第8章 人】
Q1〜12 親族相続
おおむね本災害にもあてはまる。なお、以下の点に留意されたい。
(1) Q6記載の相続放棄の熟慮期間の延長措置そのものはない。
(2 )Q9記載の「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」に基づく死亡推定制度の適用はない。法務省の特例による死亡届提出制度もない。

Q13〜21 外国人
残念ながら、おおむね本災害にはあてはまらない。


【第9章 倒産】

おおむね本災害にもあてはまるが、個別のQにつき、若干の留意点を記載する。

Q5 
(1) 「災害弔慰金」の支給は、第1章に関するコメントでも記載したとおり、現時点では決定されていないが、仮に支給が決定された場合に、この災害弔慰金はこの第9章Q5記載の立法により、差押禁止財産となっているので、差押はされない。
(2) 被災者生活再建支援法に基づく「支援金」 の支給は、第1章に関するコメントでも記載したとおり、現時点で決定されている。この支援金は、この第9章Q5記載の立法により、差押禁止財産となっているので、差押はされない。
(3) しかし、東日本大震災の際には差押禁止財産となった、「東日本大震災関連義援金」は、「東日本大震災」に関する「義援金」に関して「のみ」差押禁止財産となっているため、本災害における義援金等については、差押禁止財産にはならないものと思われる。

つまり、Q5記載のうち、法に基づく「災害弔慰金」「支援金」は差押禁止財産だと言えるが、民間や公的な義援金の支給が決まっても、これは差押を受ける可能性があるため、この機会により一般的な立法があっても良いのではないか(例えば、何らかの立法に基づく災害として認定されれば、その災害に関する義援金については差押禁止とするような立法があっても良いのではないか)とは思います・・・。

(4) 原子力発電所の事故に基づく損害賠償金は無関係。


Q10
本災害は、特定非常災害特別措置法に基づく特定非常災害として指定を受けていない。


【第10章 保険】
Q1〜3 総論
概ね本災害についても当てはまる。
例えば、Q3に関しては、下記のとおり、既に保険会社より延長措置が公表されている。
http://www.seiho.or.jp/info/news/2014/0820.html

Q4〜8 地震保険 本災害にはあてはまらない。

Q9〜12 火災保険 Q&Aは本災害で直接あてはまるものではない。また、火災が発生したとの情報はない。しかし、保険契約の内容にもよるが、火災保険の場合、「水災」に対する損害も填補する条項が付されていることがあり(なお、Q11記載のとおり、住宅総合保険であれば、大抵は「水災」に対する損害も填補する)、本災害に基づく土砂災害については、「水災」に対する損害であるとして、火災保険により損害が填補される可能性がある。

Q14、15 自動車保険  おおむね本災害にあてはまる。

Q16〜19 生命保険  おおむね本災害にあてはまる。


【第11章 税金】
Q1〜2 通則 おおむね本災害にあてはまる。但し、Q1記載の「個別の申請」なしの延長措置は、本災害においては、現時点では認められていない。

Q3〜5 所得税 おおむね本災害にあてはまる。但しQ5記載の災害特例法(東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成二十三年四月二十七日法律第二十九号))6条の適用はない。

Q6〜7 法人税法 おおむね本災害にあてはまる。但しQ6記載の災害特例法(東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成二十三年四月二十七日法律第二十九号))15条の適用はない。

Q8 消費税 本災害にあてはまる。

Q9 相続税贈与税 本災害にあてはまる部分がある。但し、記載の災害特例法(東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成二十三年四月二十七日法律第二十九号))34〜36条の適用はない。

Q10〜14 東日本大震災の被災者に対するその他の特例 残念ながら本災害にはあてはまらない。

Q15〜18 義援金・見舞金等
 本災害に対するこれらのQAの適用については、該当する部分があります。
(Q15について)
 個人の方が義援金等を支出した場合には、その義援金等が国又は地方公共団体に対する寄附金や財務大臣が指定するものなど一定のものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。(所法78条)。
 広島市が実施している義援金の募集に対し、義援金を支出した場合は、上記のとおり、当然に地方公共団体に対する寄附金ですので「特定寄附金」に該当しますので、QA15の原則に記載したとおりの適用があります。
 
 なお、東日本大震災の際は、「震災関連寄附金」という概念が設けられ(震災特例法81条)、通常は所得控除額が所得の40%を上限とするところ、所得の80%まで控除される制度が設けられていました(QA15参照)が、本災害については、これらの特例の適用はありません。

(Q16について)
 おおむねQA16に記載したとおりです。「国又は地方公共団体に対する寄附金」であれば問題がありませんが、震災の際には特別に一定の民間団体について指定がありました(指定寄附金)。本災害では、まだそのような指定が確認できておりませんので、民間団体に寄附する際については、損金算入の可否について十分ご確認頂きたいです。

(Q17、18 本災害につき適用あり)

Q19〜24 不動産登記に係る登録免許税の免除特例  本災害につき適用はありません。


【第12章 行政】
Q1〜3 罹災証明・被災証明  おおむね本災害に当てはまる。

Q4〜7 がれき おおむね本災害に当てはまる(Q4記載の指針はない)。
なお、広島市など自治体が撤去する「がれき」の処理費用については、既に国が廃棄物処理法に基づく災害等廃棄物処理事業費補助金の適用を決定し、国が9割負担することが決まっている。

Q8〜10 生活保護 おおむね本災害に当てはまる(特別な通達は出ていません)。

Q11〜19 土地区画整理事業  おおむね本災害にあてはまる。


間違い等があれば、随時修正したいと思いますので、コメント等をお願いします。