藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

英テロ未遂に思う

 ちなみに♪は広島地方CMで有名な部分から。いまもあるのかなあ。

 本題。さて、この未遂事件、日本の法律的な定義に従えば、未遂じゃあありません。
 実行になんら着手していないんだから。

 詳細はよく分かりませんが、容疑は共謀罪(conspiracy)だと思われます。伝統的な英米法の共謀の構成要件は、agreement, intent to agree, intent to commit a crimeでOK。NY州などでは、加えてovert actを要求しますが、Overt actって、外面的な表象があれば必ずしも犯罪実行行為の着手ではなくても良いので、これを要求する州であっても、あまり意味がある構成要件にはなりません。別に今回も、何かが機内に持ち込まれた訳ではなく、はっきりしませんが、パキスタンで容疑が浮上し、それに基づき、英国で、まだ飛行場にも行っていない容疑者が次々と逮捕された模様です。液体についても、具体的に話がどこまで進んでいたのか。そんな液体すら、現実には存在していなかったかもしれません。

 未然に大規模テロを防止した、これが事実であれば、少なくともその点では賞賛されるべきことでしょう。私もまもなく米国への飛行機に乗る身です。誰だって飛行機を落とされたくない。ただ、今回思ったのは、果たして24人とか19人と言われる容疑者の中には、何ら物質を保持していないし、飛行機のチケットも持っていないし、ただ、あいつと良くトークしていた、というだけの人も含まれていると思うのです、まあ想像ですが。なにせ、罪自体がいまだ犯罪の実行から遠い段階での罪ですから、その従犯のレベルというのは、人によるでしょうが、限りなく何もしていないと同じような人が紛れていると想像することは、そう悪い推測ではないと思います。そんな人が逮捕され、財産が凍結されるような法制度が、果たして良いのかどうか。

 我が国では本格的な共謀罪を導入するかどうか、まさに今年のはじめ、大もめにもめました。取りあえず、廃案となりましたが、また次の国会でももめるでしょう。その際、英国での事件を取り上げて、「こんな計画が進んでいても未然に現行法では逮捕することができない」ことを理由として、共謀罪を導入しようとする動きが強くなることが予測されます。しかし、これはとても強い薬です。副作用がとても大きい。我が国では、仮に将来無罪となろうと、逮捕されることによるダメージが大きい。主犯格とトークしたことあるだけで逮捕されることになるなら、人と談義なんてできなくなってしまうかもしれない。

 そんな効果もあるが危険な法制度を導入しなくても、仮に今回の動きが日本で起こっていても、防ぐことは十分可能だったように思います。そういう危険を事前に察知したのであれば、十分な内偵を続ければいいし、空港で警備を強めさえすれば、飛行機は守れたと思います。警備だって、これは別に空港に限ったことではないけど、必ず2人以上で1組みとなって警備するなら、警備員の一部が犯人側であっても、阻止できるでしょう。また、あまりに計画案が具体的でない段階で捕まえてしまうことで、真の黒幕を逃すことにつながるかもしれない。確かに黒幕は、自ら実行行為はやらないので、「共謀罪」で捕まえるしかないように思えるかもしれないが、我が国では共謀共同正犯という法解釈も判例上確立している。むしろ、ある程度計画が進む前は、チョロ役は計画のごく一部を知るのみで、黒幕の存在を何ら気付いていないことの方が多いのではないでしょうか。ある程度具体化する過程で、やっと黒幕も含めて計画の全容を知っていく、という感じではないかと思うのです。そうだとすれば、あまりに初期の逮捕がかえって黒幕を逃すことになるかもしれない。

 黒幕をとらえるのに無理に共謀罪を導入する必要はない。繰り返すが、共謀罪は、むしろチョロ役かどうかわからんような人を捕まえるのに役立つだけである。極論すれば、共謀罪とは、たまたま犯人グループとコミュニケーションを取ったことがあるだけのあなたが、チョロ役として逮捕される制度が良いかどうかである。そういう副作用があろうと、今回の英国テロ未遂事件の処理を評価して、導入する、ということになるのだろうか。