藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

GoToトラベル事業を差し止める裁判について

ぎーちです。

今日2020年7月22日は、「GoToトラベル事業」の開始日です。残念ながら、GoToトラベル事業は、始まってしまいました。

 

1.裁判に関する事実経過

私は、7月22日が「GoToトラベル事業」の開始日であるということを、7月10日の金曜日の夜に知りました。国土交通大臣の会見のあった日のニュースで、です。

別の箇所でも述べていますが、僕は今でも、この「GoToトラベル事業」を「いま」行うことは、明らかな誤りだと思っています。思っているので、裁判で差し止めませんか?という呼びかけをさせて貰いました。

 

結果、「勇気ある」債権者3名と共に、民事保全という手続を使って、東京地裁に対し、7月16日、「GoToトラベル事業」の差止を求める裁判を申し立てました。

主張の内容は、こうです。

「GoToトラベル事業」は、「新型コロナウイルス感染症の収束後」に行うということが明示されて、予算が国会を通りました。しかし、新型コロナウイルス感染症の現状は、収束からはほど遠く、旅行が促進されると、債権者らの生命・身体・健康など、人格的生存権が侵害されてしまう、これを後から正式裁判で争っていては、取り返しのつかない結果となるから、「いま」止める必要がある、と。

しかし、東京地裁は、7月20日、「GoToトラベル事業」(本件事業)によって、『国内における人の移動が現状よりも活発になることは否定できない』ものの、『個人及び事業者等において、いわゆる三密の回避など感染防止対策の実施が推奨され』、『本件事業は、観光等の需要喚起を目的とするものにすぎず、旅行することを強制しているものではない』、『現在の感染状況やそれを取り巻く環境等に鑑み、旅行を差し控える者も一定程度存在すると考えられる』ことや、観光業者等も対策を講じるから、『現在の状況と比べて、直ちに債権者らが主張するような生命、身体及び健康という重大な保護法益が現に侵害され又は侵害される具体的な危険が生じるとはいえない』として、この申立を却下するという決定を行いました。

 

翌21日(といっても昨日のことですが)、債権者3名の方と協議の上、即時抗告の申立を東京高等裁判所に対し行いました。

そして、今日7月22日、東京高等裁判所も、以下のように述べ、私たちの即時抗告を棄却するという決定を行いました。

 現在,我が国においては,国内における移動についての法的な制限がないため,本件事業とは無関係に国内を移動する者(例えば,本件事業を利用せずに旅行する者,業務目的で国内を移動する者など)が一定数存在することは避けられないところである。そのような状況も踏まえて,個人及び事業者等において,いわゆる三つの密(密閉空間,密集場所,密接場面)の回避などの感染防止対策の実施が推奨されている上,観光事業に携わる交通機関,宿泊施設や飲食店等においても,新型コロナウイルス感染症の感染者が生じた場合には,事業に対して大きな悪影響が生ずる恐れがあることから,可能な限りの感染防止対策を講ずるものと考えられる。そして,本件事業が開始されても,感染状況の推移やこれを取り巻く環境等に鑑み,旅行を差し控える者も相当程度存在すると考えられる。

 以上の点を考慮すれば,本件事業が開始されたからといって,これによって,直ちに抗告人らの生命,身体及び健康が侵害され,又は侵害される具体的危険が生じるとまでは認められない。

 

2.いま思うこと

そもそも、「GoToトラベル事業」は、国会における第一次補正予算を通過したものであり、これを行政が執行しているのですから、司法が口出しをするのも、例外であるべきというのも分かります。しかし、「GoToトラベル事業」は、収束後にされると決まっていました。現在の感染状況、新型コロナウイルス感染症の危険性その他、諸々の状況に照らすと、例外的に、司法が口出しすることが許されるのではないか、それくらい、皆の生命・身体・健康に危険が迫っているのではないか、そういう思いでこの裁判を始めた訳ですが、東京地裁及び東京高裁の論理に従えば、例えば、「可能な限りの感染防止対策を講ずるものと考えられ」る観光業者の行う感染症対策が効果を出さなかった場合など、東京地裁・東京高裁の想定する状況とは異なる状況が生じれば、将来、生命、身体及び健康に対する具体的な危険性が生じ、再度の申立については、差止が認められることもあるかもしれません。何より、本当に危ない状況が生じれば、裁判所が場合によっては、人格的生存権によって、特定の政策を止める可能性があることが明らかになったことそのものは、1つの成果ではないかと思います。

勿論、私たちの心配が杞憂となり、「GoToトラベル事業」の実施にも拘わらず、感染が広がらなかった、具体的危険が生じなかった、というのが、理想です。是非とも、そうであって欲しいです。

他方、様々な制約の中で、3名の方が、申立をしようと思って下さったことにも感謝しています。それぞれ、人は、様々な制約の中で生きています。私から誘ってしまうと、断りづらくなるのではないか、そう考えて、私からは、誰に対しても、個別にこちらから働きかけしませんでした。そのような働きかけなしに集まって下さった方々です。うち2名の方には、事前の面識もありませんでした。3名の方が、私の裁判戦略・戦術に満足したか否かは不明ですが、一応、やるべきことはやったのではないかと思っています。

直近では、日々、感染状況が悪化しています。「GoToトラベル事業」差止のための第二の保全事件、すぐに始めなければならない状況に、ならなければ、良いのですが・・・。