藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

ブルドック高裁決定全文(編集中)


最高裁Websiteに掲載されましたので、リンクはっておきます。最高裁自身が要旨を書いてくれていますので、全文読みたくない人も、さらっと眺めて見てください。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=34950&hanreiKbn=03


私もやっと全文読めました。


とりあえず、地裁・高裁判決を前提にしてざっくり話をすると、
(1) 濫用的買収者であること(必要性)、
(2) 総会特別決議で買収防衛策を決めること(相当性1・・・形式的要件)、
(3) 濫用的買収者の財産的損害が出ないようにすること(相当性2・・・実質的要件)、
であれば、新株予約権の発行等による買収者への別異の取り扱いは、株主平等原則(ないしその趣旨)に反するものではなく、また、不公正発行にもならない、ということになる、というのが論旨のようですね。


ざっと読んで思い付く論点ですが、
(a) 濫用的買収者の要件、本件へのあてはめの是非(平等原則の例外(及び買収防衛策の必要性)がいかなる場合で認められるか?)
(b) 今後買収防衛策として新株予約権を同様に発行する場合に、それを公使させない買収者に対し提示すべき「買い取り」価格はいかに決めるべきか(相当性の程度、特に財産的損害が出てもなお相当と判断される場合があり得るか?)

があるのかな、と思います。


まず、(b)について、少し述べてみようと思います。


今回の新株予約権の「買い取り」価格396円とは、もともとスティール・パートナーズが公開買い付けをしようとした際の価格の4分の1。権利落ちを考えれば、まさにスティール・パートナーズの「言い値」であった訳です。え、高すぎるんじゃないの??じゃあ、もっと安い価格で買収防衛してはだめなのか?という疑問が生じるわけですが、この点の決定の記載が少しおもしろいので、全文引用します。


「ちなみに,前記した本件の経緯に照らしてみると本件においては,この価格より低額であったとしても買収策としての相当性を欠くものではないとの評価も考えられる。なお,この点については,前記の経緯からして,我が国において類例も乏しく,過去に経験のない突然の外資ファンドの公開買付けに混乱した中での対応策であったともいえることからすれば,他の株主に不当,不合理な不利益を強いるものというのは的外れであり,本件総会の特別決議はこうした諸事情を了承した上での他の株主の意思表示と解すべきものである。我が国において,本件のような敵対的買収行為の対応が成熟し,しかもそれが相手方ないしそれ以下の内容,規模の企業にまで浸透するには,なお時間と経験を要するであろうことは諸々の現実に照らしやむを得ないものであり,各企業の今後の重い課題である。」



今回のスティール・パートナーズ新株予約権を行使させないこととの引き替えに渡す対価は、本件公開買付け開始前の1か月間,3か月間,6か月間及び12か月間の相手方株式の東京証券取引所における取引日の終値の単純平均値に対して約13パーセントないし約18パーセント,本件公開買付け開始直前の終値に対して約19パーセントのプレミアムを加算した額(から権利落ち部分を除した額)です。このお金は、新株予約権発行という買収防衛策の相当性確保、言い換えれば経済的損失は少なくとも生じないようにするための手法であるということで考えると、公正価格(実質的にプラマイゼロ)であれば足りるはずで、真にスティール・パートナーズが「濫用的買収者」であるなら、別に、株主平等を害する分の「プレミアム」をスティール・パートナーズにあげる必要(スティール・パートナーズをもうけさせる必要)はなく、たとえ今回の価格より低くても、公正価格である以上は、買収者vs会社との間の争いという点では、何の問題もないと考えます。


問題があり得るとすれば、既に述べたとおり、スティール・パートナーズではなく、他の株主を害するのではないか、という点ですが、これは、「特別決議」を総株主の意思表示と本当に見ることができるかどうか、何とも言えませんが、少なくとも、本件において買収者側がこの争点について利益があるとはいえないでしょう。


しかし、今回、ブルドックは、このような比較的高い価格で買い取ってしまったので、もしもスティール・パートナーズがこの会社にこだわるなら、今回の価格決定が先例となり、2度3度同じようなことが繰り返されてしまうのではないか、若干怖い気もします。つまり、再度同じような状況となったときに、今度価格を下げるということがブルドックに出来るでしょうかねえ・・・(確かに今年最高値の1776円を前提にして権利落ち部分を除したら1株444円になってしまうので、これよりは安いのですが・・・)。


・・・新株予約権を行使させず買い取るための価格というのは、諸刃の剣です。公正価格よりも高い価格に決めるなら、十分な情報開示を前提として、特別決議で「株主の意思表示」とすることは重要なのでしょうね。かかる「株主の意思表示」を行う総会で、万一、十分な情報開示が行われず、結果、株主が、実は買収防衛者に利益を与えるような買取価格であることを認識せずに防衛策に賛成してしまったような場合であれば、例え特別決議であろうと、買収者以外との株主との間で不公正発行となり、なお、取締役の責任(善管注意義務違反)を問い得るように思います。



じゃあ逆に、相手が濫用的買収者なのだから、公正価格よりも安い価格でも良いか?という点が更に問題となります。この点、会社法は、新株予約権の発行について、「特に有利な金額」「特に有利な条件」での有利発行ですら、特別決議を経ていれば、一応は適法と定める訳で(238条3項)、ならば、本件でも、濫用的買収者に対し公正価格よりも安い価格での新株予約権の買取(行使させないことの代替)のみ認めることで、相対的に他の株主に「特に有利な条件」での新株予約権の発行を認めてもいいのではないか、と考えられるからです。


ただ、「特に有利な条件」であっても、手続の相当性が問われるのは勿論で、不公正発行は違法になる訳です。勿論、形式的に特別決議があるということは、手続の相当性を裏付ける1つの(形式的な)事情となる訳ですが、買収防衛策というものは、株主平等原則に対する例外として、会社法上の根拠がないにもかかわらず、特定の株主を別異に取り扱うことを正当化しようとするものですから、手続の相当性について、一般の新株発行や新株予約権発行の場合よりも、より厳格に求められて然るべきではないかと考えます。なにせ、新株発行等は、本来出資を募るために行う訳ですが、そういった機能が、ここでは実質0なのですから。


確かに、相当性は、必ずしも、経済的損害が生じないように配慮されているかどうかの1点で判断されるものではなく、総合的な事情を衡量して決するべきことは言うまでもありません。高裁も原決定も、総合衡量しています。しかし、やはり株主平等原則の趣旨が及ぶ新株予約権発行という場面で、特定株主のみに買収防衛という名目で経済的損害が生じる場合というのは、相当性を大きく欠く結果になると思われるのです。この点については、合併や株式分割の際に新株式を交付せず、金銭等を交付する場合*1でも、やはり公正価格以下しか渡さなければ、不公正となるであろうことと同じではないかと思います。どっちにしても、会社の都合で強制的に株主権を奪われる訳ですから。



この点、米国の買収防衛策は、(1)企業乗っ取りの危険が存在し、(2)その防衛が危険に相応するものであって(過大防衛はダメ)、総株主の利益にかない、また、取締役の私利を図るものではないのであれば、(修正された)経営判断原則に従って合法と判断されることがむしろ原則となります*2(但し、会社をいずれにせよ他の株主に譲り渡すような段階に至れば、総株主のためにより高く会社を売るように努力せねばならず、特定の株主に対する防衛策を認める訳にはいかない*3)。この原則的判断に従い、Unocalを含め、買収者に実質的な経済的損害が生じてしまう場合でも買収防衛策が適法となった場合もあったわけです*4


旧商法と比較すれば、より米国各州の会社法に近づいた新会社法下においても、会社の(修正された)経営判断原則を尊重し、経済的損失が出ても同様にやむを得ないという考えもあり得るとは思いますが、我が国の買収防衛策に対する司法介入では、相当性の点はより厳しく見られているように感じます。


但し、実際の本件高裁決定は、会社側の主張する「濫用的買収者」である邪悪?なスティール・パートナーズという「属性」を相当重視しているように読め(決定21〜30頁あたり参照)、今後、実際に経済的損失が出るような防衛策が出てきた場合に、どう判断されるのか、おもしろいところです。

*1:新会社法で新たに一般的に認められた手法

*2:Unocal Corp. v. Mesa Petroleum Co., 493 A.2d 946(1985)

*3:Revlon v. MacAndrews & Forbes Holdings, 506 A.2d 173 (Del. Sup. 1985)

*4:但し実際に安い価格で株式を買い取ったという事案ではない点には注意