藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

憲法判例紹介

 今日の授業でも出てきたものが多いが、いくつか憲法判例を紹介したい。
 まずは昨年の政教分離(Establish Clause)に関する判例から。Van Orden v. Perry (2005)とMcCreary County v. ACLU of Kentucky (2005)を紹介したい。いずれも昨年6月27日に出された最高裁判例である。

 いずれも、"Ten Commandments"つまりはモーゼの10戒が書かれたものを公共施設に設置することが、政教分離に反するかが争われた事案である。

 Van Orden v. Perryの方は、テキサス州オースチンにあるState Capital(州議会議事堂)の外の庭に置かれた寄贈された石碑についての事案であり、なんとその原告Orderの訴訟代理人であるデューク大学法科大学院教授のErwin Chemerinskyこそ、今日のBarBri憲法の授業の講師なのであるが、彼がPro Bono活動の一環として行った訴訟であった(このように、日本の法科大学院vs司法試験予備校と全く異なり、米国では法科大学院の高名な教授が、BarBriの授業をして、しかもその授業が聞いていて日本人にも分かりやすい)。

 しかし、ChemerinskyはBarBriでの授業が忙しかったからなのだろうか、残念ながら違憲とはならなかった。5−4で合憲となった。

 McCreary County v. ACLU of Kentuckyの方は、ケンタッキー州の郡庁舎(Courthouseなので裁判所の可能性もあるがたぶんこっち)に設置された同じモーゼの10戒が書かれた紙(たぶん)についての事案であり、こちらは5−4で違憲となったのである。ちなみにBarBri講師であるChemerinskyはこちらの代理はしていない。

 なんともまあ微妙な分かれ方になったが、その相違が出てしまったのは、最高裁判事Stephen Breyerが一方には合憲、他方には違憲と投じたからである。

 彼の意見をざくっと読むと、要は、書いてある10戒のメッセージは一緒でも、使われ方が違うということのようである。若干言い換えれば、いわゆるLemonテスト(目的効果基準≒津地鎮祭)の「世俗目的」(Secular purpose)がちょっと変わるということのようだ。テキサスの方は広い公園に17個のモニュメントと21個の歴史的な記念碑があって、それらと一緒に存在し、かつ既に設置されてから40年以上も誰も憲法違反だと争うことはなかった。他方ケンタッキーの方は、これは2度もコピーの文言が変えられていて第3版のものが最高裁まで行ったのだが、比較的大きな字で"The Foundations of American Law and Government Display"と書かれたことと、掲示のやり方(まさに郡庁舎内部だったようだが、ざくっとしか読んでいないのでよくわからない)がどうもまずかったようだ。

 米国の政教分離判例は外にもいくつかあほらしい?のがあるが、代表的なものを挙げるとすると、County of Allegheny v. ACLU (1989)がある。これは、ピッツバーグの郡庁舎の大階段に設置されたキリスト生誕の飾り(Nativity sceneまたはcreche)と、その外に飾られたユダヤ教の燭台(Chanukah menorah、ハヌカー祭という12月の祭りで使われる)の設置が、Establish Clauseに反するのではないかとして争われた事案である。

 この事案では、Nativity sceneは5−4で違憲、Chanukah menorahは6−3で合憲であった。理由をかいつまめば、後者は18フィート(5m位)の高さのある大きいものであったが、すぐ隣に45フィート(13.5m)ものクリスマスツリーが置かれ、単純に祝日を祝う飾りとして共に並べられていたが、前者は、単独で置かれていて、宗教への支援になるとされた。