藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

きっと

 著作権法違反が多発するのかなあ。

 朝日新聞電子版6月9日付
http://www.asahi.com/national/update/0609/TKY200606080386.html

 世界中で延べ300億人超がテレビ観戦するとも言われるサッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会。テレビの生中継を放映するスポーツカフェや観戦イベントなどは、有料なら事前に放送権料を支払って放映の許可を得なければならない。だが、大半は無許可のままという。02年日韓大会でも問題になった「無断放映」は、今大会でも状況は変わらないようだ。

 W杯の放送権は、国際サッカー連盟(FIFA)が巨額の権利保護のため、不特定多数でのテレビ観戦を規制している。大画面を設置して大勢で観戦する有料イベントや飲食店などでの店内観戦は権利の2次利用にあたり、事前に許可申請し、放送権料を払わなければならない。

 申請基準について、国内代理店の電通(東京都港区)は「集客目的かどうかで判断する」と説明する。たまたま入った定食屋でテレビを見たり、家電量販店のテレビの前に人が集まったりするのは構わないが、「放映します」と宣伝して客を集めるのは申請が要る。

 テレビ局が放送するWカップの試合のテレビ番組には、当然ながら著作権が絡む。
 放送事業者は、自ら著作権(ないし著作隣接権)を有するだろうし、サッカー選手自身にも実演家としての隣接著作権があり得るだろう*1。そして著作権著作隣接権)の一内容として、公衆送信権送信可能化権を有する(著作23条、92条の2、99条の2)*2
 我々普通の市民が自宅でテレビを見る場合に、普通は著作権の問題は発生しない(だって権利者が想定している送信先だから)。

 しかし、もしこれが100人収用のバーだったら?

 バーは、受信した映像を、100人*3に「上映」*4している。その上映物が公衆送信権(放送権・有線放送権)の対象たる著作物である場合は、公衆送信権(放送権・有線放送権)の侵害となる(上記著作権法の違反)。

 従って、著作権著作隣接権を持つ者の許諾がなければ、そういう「上映」をしてはいかん。
(なお、受信したテレビ映像を、影像を拡大する特別の装置を用いて大きくして見る場合は、更にテレビの「伝達権」の侵害にもなる(著作100条)。)

 じゃあ、友達と集まって、大学で50人で無料「上映」する場合はどうか?
 この場合は、著作権法38条3項第1文の「営利を目的としない上映等」に該当し、例外的に著作権侵害の違法性が阻却される。上記新聞で「家電量販店の前で人が集まったりする」場合も、おそらくこれに該当すると思う。
 ちなみに、そこいらの定食屋や喫茶店でのテレビ放送であれば、「家庭用受信装置」でなされる限りにおいて、営利であっても、また仮に入場料を取っていたとしても、公衆送信権(放送権・有線放送権)の侵害にはならない(38条3項第2文)。

 ということで、バーでカネを取って上映するのは、上記各種著作権の侵害なのだ(え、放映料じゃなくて飲み代だって?いやあ、それで客寄せしているんでしょう。少なくとも「営利目的」ありです。)。

 W杯の放映権は高いらしいから、違反したら結構痛いと思うよ。

 ちなみに、米国著作権法上も、この種の行為は実演権(public performance right)・展示権(public display right)の侵害となる(米国著作106条)。ところが、米国の例外規定はおもしろくて、一定の小規模レストラン等の店舗の場合でも、つまり営利目的であっても、6台のスピーカー、55インチ以下の視聴覚受信装置を用いるのが合法となる(110条5項)。

 もっとおもしろいのが、この営利目的でも小規模のお店なら許されるという例外規定が、TRIPS及びBerne条約の規定(著作権侵害を例外的に合法化する場合の3基準*5に違反するとしてEU等から提訴され、WTOの裁定によれば、米国著作権法は条約違反だとして、罰金が払わされていることである。そして、そのような罰金を米国政府は払ったが、なお、この著作権規定を改正していない。

 まあ、いずれにしても、お店での放送、アメリカならセーフでも、日本ならアウトで、お店自体はアメリカでセーフでも、米国政府はアウトということなんです。

*1:正確には知らないが、実際は選手の隣接著作権(や肖像権)なんていうものは大会の「合意」によってFIFAに移転させられ、「放送権」という束になってFIFAが販売し、これを電通等が購入しているものと思われる。なお、米国には著作隣接権という考えが基本的にない

*2:なお米国には公衆送信権送信可能化権という概念もない

*3:ちなみに10人でも結論は一緒

*4:著作権法に言う上映権ではない、まあどうでもいいかもしらんが

*5: (a) 例外的事例であること, (b) 通常の使用と抵触がないこと, (c) 本来の権利者の利益を不合理に害しないこと。この事案で米国側より提出された証拠によると、71.8%の米国の飲食店が当該条項の「例外」を適用することができるということで、全然「例外」ではない、として米国側の主張が認められなかった