藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

夕張市

朝日新聞6月17日付電子版

北海道夕張市財政再建団体へ 負債540億円

 北海道夕張市は16日、自治体の倒産にあたる「財政再建団体」に移行する方針を固めた。20日開会の市議会で、後藤健二市長が表明する。市の単年度収支は黒字だが、負債が約540億円にのぼり、自主再建は不可能と判断した。今後、財政再建計画を策定し、総務省から財政再建団体の指定を受ける。年内に指定されれば福岡県旧赤池町(指定期間92〜01年)以来14年ぶりとなる。

 財政再建団体は、市町村で実質収支の赤字額が標準財政規模の20%以上になった場合が対象。夕張市の場合は約9億円がデッドラインだ。財政再建計画を策定し、国の管理下で財政を立て直すことになる。

 夕張市の財政の実態は大幅に悪化していた。今年3月末の負債残高は、一時借入金が約292億円、地方債が約130億円など総額は約542億円。05年度の当初予算額約114億円の約5倍で、自主再建は不可能になった。

 正直私は行政法には詳しくないのだが、米国の倒産法第9章に自治体の更生手続が定められており、他方で日本でも、より倒産処理的な自治体の再建手続を規定しようという動きがあることから、この種のニュースには反応してしまう。

 従前日本でも、第三セクタが多額の借入金をかかえて実質倒産する時に、特定調停手続を活用して「話し合い」でこの種の債務を整理してきた。また、大阪ドームのように会社更生手続を使う場合もある(まあ、大阪ドームは目に見える1つの分かりやすい資産があるので、会社更生の方が良かったのだろう)。話し合いか、(多数決による)強制かの違いはあるが、いずれも、借金のカットがあるわけだ。

 ところが、財政再建団体になっても、540億の借金を具体的にカットする方策は特にない。

 「財政再建団体」指定の基礎となっている地方財政再建促進特別措置法が想定する「財政再建団体」とは、単年度の支出が収入を上回る状態が解消されないため、国などの監督のもとで、単年度黒字を回復し、再建するというものである。言い換えれば、会社では良くあるような、借金づけで単年度黒字であっても、利払いがかさむために全然借金が減らない!という事態を全く想定していないのだ。もっとも、交付金等で国からの支援が得られる等のメリットもあるので、多少は借金漬け自治体でもメリットがあるのだが、しかし、財政規模が数十億しかない自治体で540億の借金があれば、「財政再建団体」に与えられる武器など、「焼け石に水」でしかない。要するに、夕張市の財政をいま、救う法的な手段は、極端に言えば、ないのだ。

 こういう自治体の実質倒産は、決して夕張1つの問題ではない。それと、会社と違い、破産すれば良い、で済まないということも忘れてはならない。米国倒産法第9章も完璧ではない(11章=会社更生と比べると債務者保護が弱い)が、しかし、明確な倒産手続きと位置づけられるだけでも全然違う(言い換えるなら債権カットが予定されているだけでも違う)。自治体合併が順調にスリム化につながれば多数の自治体が実質倒産するという悪夢も避けられるかもしれないが、貸借対照表損益計算書の作成すら義務づけられていない自治体というものは、今回のように途方もない借金を平気で存続させかねない。

 平成の大合併が、単なる倒産自治体の巨大化という悪夢を招いただけだった、と言われないような対策をせな・・・。