タイのクーデターから何が学べるか
タイのクーデターからおよそ2週間。無血クーデターとしてタイ国内での国民の支持は高いようだが*1、同じ「立憲君主制」*2を採る国としては、このクーデターを他山の石と見るべきではなかろう。
第一に、このクーデターが、タクシン前(暫定)首相と軍部との間の勢力争いの陰で発生したという事実を看過すべきではないだろう。タイでは、軍部は直接国王に対し責任を負う。言い換えれば、内閣によるシビリアンコントロールが不完全なのである。確かにタクシン氏の今年に入ってからの政治姿勢は、賞賛に値しなかったが、だからといって、政権が容易く軍隊によって崩れるというのは、成熟した国家とはいえまい。シビリアンコントロールが不完全だったからこそ、タクシン氏による軍部への介入が、軍部からは「不当」に映るのである。
しかし、我が国とて、このようなクーデターと無縁の国でいられるかどうか。
1つの試金石が、防衛庁の「省」昇格問題である。
防衛庁は、「庁」であり、内閣府の下部(外局)に属する組織である。
従って、防衛庁長官は、国務大臣が充てられているものの、「省」ではないことから、他の「省」の大臣ほどの権限がない。そこで、防衛省ないし国防省として、1つの独立した省にしようという動きが活発である。しかし、かつて軍部が独走した歴史を持つ我が国が、そのような体制にすることによって、タイの二の舞になることはないだろうか。
我が国は防衛庁を内閣総理大臣が(防衛庁長官を介するするとはいえ)直接指揮命令する訳であるが、これは別に特殊なことではない。アメリカ合衆国におけるコマンダー・イン・チーフは勿論大統領である。
名前だけ「省」か「庁」かという議論はあまり有意義ではないが、我が国の過去の歴史・文民統制の必要性、そしてタイのクーデターに鑑み、文民による防衛の指揮命令を明確にすべく、1つの理念を示す名称として、防衛庁は「庁」のまま据え置くことこそ、クーデターなき「立憲君主制」を築くためにより有益ではなかろうか。
*1:タイの現状については、http://thaina.seesaa.net/ が詳しい