藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

Military tribunals bill

 最近午前6時30分に家を出発することにトライしているが、早速今日は失敗したので渋滞回避のために出発を少し遅らせているところ。

 上下両院通過後、この火曜日にブッシュが署名して正式に成立した法律、それが"Military tribunals bill"*1である。日本でどこまで報道されているかしらないが。

 この悪名高い法律の内容を簡単にいえば、要はテロリスト容疑者をMilitary tribunal(軍法裁判所)で処罰するという内容で、テロリスト容疑者には、通常の刑事裁判では当たり前の伝聞証拠法則の排除や通常の刑事裁判ではあり得ないCIAによる"harsh"で"tough"な尋問の合法化、通常であれば尋問や拘束の過程で被疑者・被告人が虐待された場合に裁判所より人身保護令状が発令されるがその不適用など、14の事案に限っているとはいえ、仮にその容疑だとして捕まった場合にはかなーり恐ろしいことが待っている内容となっている。Geneva Conventions(ジュネーブ条約)第3条*2違反ではないか、そんなことがアメリカの人権の価値に反しないのか、かなり議論があったが、1つは中間選挙を間近に控えたブッシュ政権が「対テロ戦争」をもう1度持ち出すことで支持率の回復を狙ったのか、とにかく成立してしまった。特に、合衆国憲法上全ての人権が保護される訳ではない外国人にとって、拘留が米国外でなされることが多いテロ事件容疑の場合、合衆国憲法違反を理由とする争い方もできない可能性がないとはいえない。

 自分には関係ないと思っている方々、合衆国政府をなめすぎである。
 彼らは米国に対するテロの容疑者だと思えば、たとえ国外にいる人間であっても、たとえそれが具体的に実行に加担したものでなくても、追いかける。勿論、そこに誤解もありえるわけだ。私だっていつテロ容疑で引っ張られるか分からない(勿論私がそんな暴力的手段を使う筈もないし自由主義と民主主義を愛する者であるが、こうやって合衆国政府を批判する外国人はみなテロ容疑者に見えるかもしれない)。そこで伝聞証拠と違法な尋問によって裁判が成立してしまうということになれば、また不当な身柄拘束が不当でなくなるとすれば、果たしてどうやって冤罪を晴らすことができるというのだろうか。

 

*1:英語の話であるが、tribunalといえば特別裁判所を指す。通常のCourtという単語はそういう場合使わない。

*2:締約国の一の領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争の場合には、各紛争当事者は、少くとも次の規定を適用しなければならない。【第1項】敵対行為に直接に参加しない者(武器を放棄した軍隊の構成員及び病気、負傷、抑留その他の事由により戦闘外に置かれた者を含む。)は、すべての場合において、人種、色、宗教若しくは信条、性別、門地若しくは貧富又はその他類似の基準による不利な差別をしないで人道的に待遇しなければならない。このため、次の行為は、前記の者については、いかなる場合にも、また、いかなる場所でも禁止する。(a)生命及び身体に対する暴行、特に、あらゆる種類の殺人、傷害、虐待及び拷問 (b)人質 (c)個人の尊厳に対する侵害、特に、侮辱的で体面を汚す待遇 (d)正規に構成された裁判所で文明国民が不可欠と認めるすべての裁判上の保障を与えるものの裁判によらない判決の言渡及び刑の執行【第2項以下略】