藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

キャノン

朝日新聞電子版12月30日付
http://www.asahi.com/business/update/1230/002.html

キヤノンは、次世代の薄型テレビ向けの「SED」(表面電界ディスプレー)の量産工場を、約2000億円を投じて兵庫県に新設する計画を白紙に戻すことで、共同開発する東芝と最終調整に入った。1月に発表する。関連技術を持つ米社との特許訴訟が難航しているためだ。テレビ参入を悲願とするキヤノンの戦略が狂うのは避けられず、投資に期待する地元にも波紋が広がりそうだ。

 キヤノン東芝は99年に共同開発を始め、SEDパネルを開発・生産・販売する折半出資会社「SED」(神奈川県平塚市)を設立。05年5月に、SED社のパネル量産工場を東芝姫路工場内(兵庫県太子町)に建てると発表した。

 キヤノンを訴えたのは、関連技術のライセンス契約を同社と結ぶ米ナノテク会社「ナノ・プロプライアタリー」(NP、米ナスダック市場上場)。SED社がキヤノンの子会社かどうかを巡り、05年4月に米国で提訴。和解交渉が難航しており、キヤノンは新工場をいったん断念することにした。訴訟が解決すれば、改めて量産を検討する可能性は残っている。』

『 事態の打開へキヤノンはSED社への出資比率を高める方針だが、その場合もNPは「(現契約では)東芝にライセンスを移せない」として、東芝がSED社からパネルを調達する際は別途、特許権使用料の支払いを求める考えのようだ。』

 ちょっと実務の感覚がよみがえるニュースでした。ライセンス契約って、よくよく考えて作らないと大変です。

 ライセンス契約上のライセンシーの地位の移転、という問題なんですよね。(1) そもそも契約上特別な合意がない場合に、ライセンサーの同意なくライセンシーの地位の移転(譲渡や実施許諾)ができるのか? (2) 契約上または法解釈上原則として移転できないとしても、当該移転については許される余地がないか(例えば当事者と同視できる者であればライセンシーとして権利行使できる・・・)? という2つの問題なのですが、考えれば考えるほど複雑な論点が絡まる訳です。

 日本の民法の原則からすれば、債権は原則譲渡自由ですが、特許権の実施権については、原則として(例え専用実施権であっても)実施権者側が無断で第三者に譲渡したり実施権を更に許諾する等できません。他方米国の特許法のもとでライセンサーがその権利を移転できるかについては、少なくともnon-exclusive licenseの場合は移転できません*1が、exclusive licenseの場合については、判例が確立しているとはいえないと思います。と言う訳で、特に日米間の場合、とりわけexclusiveなライセンスの場合は、ライセンサーがどの範囲なら移転できるのか、しっかり作り込まなければいかんわけです。

 で、大抵ですね、原則第三者への移転とか実施許諾はだめやけど、「子会社」「関連会社」だったら実施許諾OKよ(移転OKまたは当事者扱い)、と書く訳ですが、それはどうやって判別するのか、上場会社の場合はなかなか大変です。会社の組織再編も頻繁にあるし、会社名を列挙する訳にはいきません。資本比率で定義したくても、34だったり51だったり、色々です。依頼者である上場会社の方が、都合良く解釈できるよう曖昧であって欲しいと仰る場合もあります。まったくわからんですが、Canonの場合も、きっと定義がきちっとされなかったんでしょうね。その結果、「分からない」ということになると、どうなるか。原則論に戻って、駄目、ということになるんでしょうね。

 ライセンスの場合、倒産とかの場合を想定したら更に複雑になる訳です(双方未履行双務契約→米国倒産法365条(n)などとの相違)が、頭の体操にはもってこいかもしれません。分厚いひな型から作るスタイルではない私の場合は、ちょっと時間かかりますけどねえ。

*1:例えばUnarco Industries, Inc. v. Kelley Co., Inc., 465 F.2d 1303 (7th Cir. 1972), In re CFLC, Inc., 89 F.3d 673 (9th Cir. 1996)