藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

密告社会にしたいですか?


 昔から私は、安倍さんは折角カリフォルニアに留学した*1のに、中途半端な米国の制度しか真似ない、と批判して参りました。

 今般もそう思う出来事があるので、少し書かせて下さい。


 共謀罪については、既に良く知られていると思いますが、これと併せて、いわゆるゲートキーパー法案も、本国会に上程されるようです。自民党の一部は、この上程を参議院選挙前であるし避けるべきであると考えていたようですが、「国際社会の要請」を重視する安倍総理大臣が、押し切って上程する模様です。


 ゲートキーパー法ってナンでしょう?
 日弁連のサイトこちら


 要するに、弁護士に依頼者の相談内容に違法な疑いのある取引について密告義務を課そうとするものです。安倍さんによれば、これは国際的な「対テロ戦争」に必要なものだそうです。

 さあて、じゃあ私の勉強したCAやNYの弁護士倫理立法では、依頼者が違法な行為に関与しようとしている場合(未来)および過去に関与したことを知った場合、どうしろと言っているのでしょうか?

 アメリカでも、勿論弁護士には、依頼者の秘密について守秘義務があります(例えばABA Model Rule of Professional Conduct 1-6参照)。

 アメリカの場合、州によってルールが若干異なるのですが、例えばカリフォルニア州では、死や相当な身体への傷害の発生を防止する必要がある場合に限って、依頼者の秘密情報を第三者(結果防止のために適切な者)にうち明けることができること(しかし「うち明けねばならない」という義務ではありません)を認めています(カリフォルニア州 Business and Professional Code, Section 6068 (e)参照)。しかし、カリフォルニア州では、経済犯罪一般について、このような第三者への秘密開示権限を認めてはいません。むしろ下記の連邦法の例外を除いては開示を禁止しています(弁護士としては、将来の違法行為関与を知った場合、自己の代理行為が違法行為を構成することになるのであれば、辞任することが義務とされており、また、自己の代理行為は違法行為にならないが、依頼者の将来の違法行為を知ったことを理由として辞任しても良いということになっています。過去の違法行為については、それを理由として直ちに辞任する義務はありません。)。

 関連する法律として、連邦法に、Sarbanes-Oxley Actという法律があり、これは何かというと、証券取引について弁護士が違法な取引を発見した場合にどうすべきか、規定されているものなのですが、これも、関係機関に通報する義務を認めるものではなく、弁護士に当該違法行為のあった会社内に通報する義務を認めているに留まります(最終的に弁護士がSEC(証券取引委員会)に報告しても「良い」という規定にはなっています)。

 要するに、我が国が導入しようとしているような、弁護士に第三者(警察など)への通報義務を認めた法律は、現在のカリフォルニアには存在しないのです。


 ちなみにNYの場合、生命身体への危険のみならず、経済犯についても、同様に犯罪抑止のために必要であれば通報しても良いという規定がありますが、やはり義務とはなっていません。


 あの米国ですら、まだ弁護士密告法は成立していないのです。
 何故わざわざ日本が、これを成立させなければいけないのでしょうか。


 勿論、テロは困ります。違法な行為は助長されるべきではありません。しかし、弁護士にちょっと話をしたら、それが警察に「筒抜けになるかも知れない」と思うなら、誰が弁護士に安心して相談できるでしょうか。


 「美しい国」は、密告社会なのでしょうか。


 もしも、テロ対策をしっかりやりたいというのであれば、また、マネーロンダリングについて危惧があるのであれば、安倍さんの重視している教育面で、マネーロンダリングについてもっとやってみるとか、他に手段があると思います。弁護士に関しても、米国のように弁護士倫理を司法試験科目にするというのも手かもしれません*2。その方がよほど対策になるのではないでしょうか。今のまま、多くの弁護士も気付かないまま、密告法を作るよりもless restrictiveなやり方はいっぱいあるでしょう。

*1:USC(南カリフォルニア大学)中退

*2:アメリカでは、MPREと呼ばれる倫理試験が通常の司法試験とは別の試験として存在しており(択一式)、これで一定の点数を取らないと弁護士登録できない。また、別途、州独自の試験の科目の中に、弁護士倫理が含まれており、これが問われる(例えばカリフォルニアでは試験科目全14科目の1つであるがほぼ毎年1問論文に出題される重要科目となっている。ニューヨークでも、試験科目全26?科目のうちの1つであり、ニューヨーク州独自の択一試験(50問)の中で数問問われる他、論文試験にもそれなりに高い頻度で出題される(私が受けた昨年7月の論文試験では出題された)。