藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

学歴ネタと格差の話(2)


 前回は、(1)日本は相対的に非学歴社会であり、(2)それが実は格差の原因になりつつある、という仮説を述べました(私がそれに賛成とかどうか、というレベルの話ではありません。アメリカに生活する身として、そう実感してきた、というだけです)。(1)を所与のものとして、自分でも疑問がある(2)についてあれこれ述べようとしたのですが、(1)につき個人的には意外な反応もあったので、(1)非学歴社会か否か、について、論じてみたいと思います。


 まず、学歴社会の定義づけが問題となりますが、取りあえず、一般的な理解だと思うのですが、


 『学歴を持っていることが、より高い収入に結びつく社会』


 ということにしてみようかと思います。


 この定義でいきますと、確かに日本は学歴社会、とも言えます。


 良く知られた生涯賃金による比較*1でいきますと、標準労働者、つまり、ある会社に入ってずっと定年までその会社で働いた場合の学歴による生涯賃金は、2003年において、大卒男性の場合2億8860万円(退職金を除く)、高卒男性の場合2億5730万円(同)、中卒男性の場合、2億2090万円と、中卒と大卒では6770万円もの格差が生じます。ちなみに高卒と大卒では3340万円です。


 ただ、これもご承知のように、現在97%以上もの人が高校に進学します*2。そして、50%を越す人が大学・短大に進学し*3、専門学校等を入れれば7割の人が高卒以上の学位を取得すると言われている現在において、以上の結果からただちに日本が「学歴社会」だと即断するのは早計ではないでしょうか。

 特に、高卒と大卒の生涯賃金の差の3340万円というのは、率にして12%弱の差です。これは、後述するように世界的には稀な小さな差です。個人の努力(例えば企業内での努力や、起業による独立など)で巻き返しが可能な差と言っても過言ではありません。

 さらに、この資料を見ますと、学歴格差よりは、所属する企業の大小にもとづく格差の方が大きいことが分かります。例えば同じ大卒でも、1000人以上企業と100人未満企業所属では、9000万円以上生涯賃金が格差があり、同じ高卒でも、7000万円以上の格差があります。また、大卒男性と高卒男性の差と同じくらい、大卒男性と大卒女性の差が存在することも分かります。

 表23−1と23−2(一般労働者)を比較すると更に面白いことが分かります。「標準労働者」とは同一企業で働く場合ですが、一般労働者は、会社を替える場合を含みます。「一般労働者」の大卒男性の生涯賃金は、2億3540万円にしかなりません。「標準労働者」の高卒男性の生涯賃金を下回る訳です。学歴よりは「同一企業で働き続けること」の方が生涯賃金に重大な影響を与える訳です。そしてこれらの指標はいずれも退職金を含めていませんが、一般に勤続年数が増すほど退職金は増える傾向がありますので、退職金を含めた場合は、この一般労働者と標準労働者の「格差」は更に拡大するものと思われます。
 

 学歴と収入の相関関係につき、国際的に比較した場合は、どうでしょうか。

 OECDの加盟国において高卒相当を100とした時の賃金比較を一覧にした図もありましたので、ご覧下さい*4。これを見ますと、OECD加盟国では、高卒と大卒以上との所得差は、ハンガリーでは2倍以上、米国で2倍近く、殆どのOECD加盟国で40%以上生じているのが分かります。一番低いデンマークでも25%以上の格差があります。この統計に日本のデータが含まれておらず、比較の基礎となる収入に若干の違いがあるかもしれませんが、単純比較ではどの国も日本の倍以上の「学歴社会」であると言えるようです。


 他方、学歴社会という場合において、大卒か高卒か、という違いのことを言うのではなく、「東大かどうか」、つまり、大学別格差のことを意識して言われることがあります。じゃあ、東大卒であれば年収も1番高くなるのでしょうか。

 この点ははっきりしたデータがないので何とも言えませんが、ちまたに溢れる情報によれば、大卒者の平均年収という点で卒業大学別で比較した場合、白百合女子大学や東洋英和女子大学の方が京都大学よりも上だというものもあります*5


 このように、他の賃金の差が生じる要因との比較で考えても、国際比較においても、日本における学歴の差というのは、極めて小さいと言えると思います。0とは言いませんが、「一定のレベル」を超える・超えないにかかわらず、日本全体が「相対的に学歴社会ではない」と言うのには十分ではないでしょうか。

*1:独立行政法人 労働政策研究会 統計資料 表23−1を見て下さい。

*2:97.6%(2005年)平成18年度「学校基本調査」(文部科学省http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/06121219/005.htm

*3:51.5%(2005年)同上

*4:Background Report for Meeting of OECD Ministers of Education in June 2006OECD、2006)英語 の「21」参照。

*5:http://mailzou.com/get.php?R=2617&M=2145よりDownloadできる無料E-bookの内容による。