藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

インハウス・ローヤー


 朝日新聞電子版平成19年2月25日
 http://www.asahi.com/national/update/0224/TKY200702240291.html
 『「インハウス弁護士」採用進まず 検討企業、1割未満』


 そりゃ、そうでしょう。複合的な問題があります。


 何故、米国でそんなにインハウス・ローヤーが必要なのでしょうか?


 第1に、米国にはローヤー以外の法律専門職が基本的にはない訳です。
 そして、ロースクール出以外が法律をかじる機会もないのです。

 前も書いたかもしれませんが、米国の本屋に行って見て下さい。日本の大都市の「紀伊国屋」「丸善」規模の本屋であっても、「法律書コーナー」なんてないです。まさに「社会生活上の医師」として、そういう事案は弁護士(ローヤー)に任せることになっているので、それ以外の人は、興味は持っているけど、専門的には勉強しない訳です。だから、企業内で「法務部」を作るためには、どうしても、ちゃんと勉強しているローヤーが必要なです。

 日本では、ロースクールを誕生させた後でも、年間数万人の学生が「法学部」に入学します。彼らはちゃんと憲法民法会社法も勉強します。基本法である民法の単位数でいえば、ロースクールよりも多かったりします。いうなれば、弁護士じゃなくても、法律に高度に専門的な方が沢山誕生する訳です。実際そういう方が企業内の法務担当者として大活躍しているのが我が国の大きな会社の現実です。


 第2に挙げるのは早すぎるとは思いますが、最近は、ディスカバリーの問題も相当関係あるように感じます。

 弁護士が作成し、または弁護士の指示のもとに作成した文書は"Attorney Work Product"ということで、証拠法上、Discovery(特にProduction)の対象から外れます。同時に"Attoney-client privilege"も満たすでしょう。つまり、企業が訴訟リスクを抱える際に、これを最小限にするには、常に弁護士の指示のもとに活動しなければいけない訴訟制度になっている訳です。

 ところが日本では、そもそもディスカバリー制度がないに等しい。出したくない証拠は、弁護士の手を借りなくても、出さなくて済む訳です。それであれば、わざわざ社内に弁護士を置かなくても、訴訟リスクの回避のしようがあるってもんじゃないでしょうか??


 会社法務で要求されるレベルの差という点では、訴訟法上の問題だけではなくて、会社法上の問題もあると思います。日本であれば、会社の重要な決定は株主が行います*1が、米国の場合、会社の重要な決定で株主総会決議を要するものであったとしても、同時にBoard of directors(取締役会)の決議を不可欠とするものが多い訳です*2。言い換えれば、仮に株主総会で認められても、取締役会の決議がおかしかったら、なお損害賠償請求される可能性がある訳です。もちろんビジネス・ジャッジメント・ルール(経営責任原則)に守られる訳ですが、それでも日本よりリスクがあります。ここに日本とは違う企業法務の需要があるように感じます。


 他にも、弁護士の質の問題(米国では質がばらばら⇒自社できちんと弁護士を育成する必要+外部の弁護士は高い!、これに対し日本はいままでは質がそれなりに確保され、かつ相対的に安かった⇒必要な時だけ外部に頼めばいい。特に顧問弁護士制度という独特の制度が弁護士安定的確保に寄与)とか、いろいろあると思いますけど。


 また、日本の自治体で弁護士採用が進まないだろうと思う理由については、自治体において立法能力がさほど要求されていないという事情もあると思います。どこの条例もほとんど同じですからねえ。この点アメリカの州とは大きな違いです。州は「国」ですからねえ。


 以上簡単ですが、インハウスでの需要増(というか弁護士の急激な需要増)は、制度改革(民事訴訟法改正や道州制、広義の法曹一元制度など)が進まないと無理です。諸悪の根源は、ロースクールだけ沢山作ってしまったこと、これに尽きます。そして、日本社会の現状から考えて、真に米国型の、「法律のことは社会生活上の医師である弁護士に全て任せましょう」という社会には、ならないように思います。

*1:ここで言いたいのは、例えば合併や会社分割といった提案は実際は会社側からやられることが多く、従って取締役会決議が前提として存在するだろうけれども、株主もそのような取締役会決議なしで独自に提案し、多数派を構成すれば会社提案に勝つことができる、ということです。

*2:つまり、重要事項について、取締役会提案とは全く別の提案を独自に株主が提案できないことが多いということになります。