藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

新司法試験採点基準漏洩問題


 新司法試験の考査委員をされている先生方が、各地で採点基準や出題されそうな問題を「漏洩」したという問題があるようで、一部で騒ぎになっています。お粗末というか、どうしようもないとしか言いようがないのですが、もっと大きな問題があるようにも思うので、ちょっと持論を述べてみます。


朝日新聞電子版平成19年6月29日付
【新司法試験考査委員、慶大教授を解任】
http://www.asahi.com/national/update/0629/TKY200706290203.html
【新司法試験委員の考査委員、自校生に「採点基準」】
http://www.asahi.com/national/update/0629/TKY200706290315.html


 別に司法試験の問題を、法学部等の教授や弁護士などで構成される「考査委員」が作成すること自体、なんら珍しいことではなく、長年やられてきました。しかし、以前ならばそこにあった、暗黙の了解というものが、なくなってしまったような気がします。


 例えば、現在も存在するのかどうか分かりませんが、私がお世話になった「京大答練」では、このサークル(入会試験合格者のみ所属可能)の学生が、大学在籍の教授に、出題をお願いしに行きます(特に考査委員だからどうのこうの、というのは分かりませんが、私が知る限りでは、元考査委員の出題はあっても、現職考査委員の出題はなかったと思います)。しかし、その教授は、採点基準を作ったり、答案を添削したり、講評したりすることはやりません。誰がやるか、といえば、そのサークルで過去にお世話になった、司法試験合格者がやるのです。私も、合格後に、2回ほど答案練習会の採点基準の作成、答案の添削、講評をしたことがあります。他の大学の答案練習会がどんなものかしりませんが、今まではこんな仕組みだったと思うのです。


 少なくとも、慶應大学には、過去に多数の合格者がいるわけですから、何故法科大学院の教授、しかも考査委員が、答案練習会の採点基準の作成等に関与しているのか、不思議でなりません。大学そのものが組織的に「甘い」ないし「たるんでる」としか言いようがありません。


 そもそも、ロースクールは、少なくとも学校では、司法試験という「点」による選抜を意識し過ぎずに、専門的な教育をする場として設けられたものです。新司法試験の「ヤマ」が論文式試験である以上、答案練習会は必要です。しかし、これは、むしろ学生や過去の合格者(卒業生)や、学外の弁護士などの力を借りて運営すべきであって、大学院教授や講師である考査委員が答案練習会にかかわるというのは、論外です。


 いやしかし・・・合格率が低いから、大学院でも合格指導が必要だ、という声もあるかもしれません。しかし、かつて1〜3%だった旧司法試験に比べれば、40%前後の合格率(昨年48%)が望める試験なのですから、合格率の問題は「ゆきすぎた指導」をする理由づけにはならないでしょう。少なくともこの新制度は米国のロースクール制度をある程度模倣したものですが、米国のロースクールが私に、ニューヨーク州司法試験(合格率60〜70%程度)やカリフォルニア州司法試験(合格医率40〜50%程度)の受験指導をしてくれたことは1つもありません。


 でもでも、法科大学院は法曹になるための大学院、専門職大学院だから、合格指導は当然だ、という考え方もあるかもしれません。しかし、私が行ったUniversity of California, Los Angelesのある教授は、Bar Examについてロースクールがもっと指導してくれというある学生の質問に対し、司法試験の指導は、大学院教育の場でやるべきことではない、と明確に回答していました。専門職大学院という点では日米には違いがない筈。専門教育と司法試験の勉強は違います。勿論、司法試験の勉強のために大学院側から一定の援助は必要でしょうが、度を過ぎた受験指導は、何のために新しい法曹養成制度として、法科大学院制度を中核としたのか、その意義を忘れてしまう危険な行為だと思います。


 公正さを疑われてしまった今年の新司法試験には、合格する価値がないと言っても過言ではないでしょう。私が受験生であれば、仮に漏洩の場となった慶応の学生であっても、そうでなくても、怒るに決まっています。再試験を要求すべきです。


 一般の人には関係がない話に感じるかも知れません。しかし、司法試験で結果的に何らかの「ズル」があった人が、自分を裁く裁判官や、自分を起訴する検察官、あるいは、自分を擁護したり相手方を代理する弁護士になった、と想像したらどうでしょうか。


 もう1つ疑問に感じるのは、問題のあった大学での処分等が未だ発表されていないことです(調査中、のようですが、新司法試験の採点が始まろうとしている昨今ですので、急ぐ必要があるのでは?と思いますが・・・)。調査結果は一般に公表されるのでしょうか?


 とにかく、問題があった大学は、当該教授に最大限厳しい措置で臨み、再発を防止すべきです。特に、今回問題となった大学であれ、そうでない大学であれ、制度として考査委員が答案練習会等を行っている場合は、少なくとも現職考査委員は一切関与しないよう、改めるべきです。また、今回の事件が「氷山の一角」なのかどうかも徹底的に調べるべきです。新法曹養成制度が、優秀な人材を育てるためではなく、各大学のエゴに使われるとすれば、本当に失敗だったと言う他にありません。まだ、誰でも受けられる予備校の答案練習会の方がマシでしょう。


 米国で2つの司法試験を受験し、日本の司法試験は、デキが素晴らしい、誇れる、と思っていたものですが、本当にがっかりです。


 私は、まだ新法曹養成制度に絶望はしてないけど、本当にがっかりしました。