藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

いのちの値段


 既に中国の航空事故や鉄道事故については触れているのですが、一般的な不法行為(中国語では「侵権行為」といいます。)の生命損害賠償に関するルール、特に逸失利益の計算に関するルールについて言及しておきたいと思います。


 逸失利益の計算は、日本でもアメリカでも、その亡くなったまたは怪我をした人が、具体的にいくら将来稼ぐことが可能かという観点から行われるものです。日本の場合、一般には、67歳までに得られるであろう収入を計算して、ライプニッツ方式という複式計算で現在時価に換算して計算します。また、死亡の場合は、本人の生活費(死んだので本人の生活費がかからなくなった)控除も損益相殺することが普通ではないかと思います。


 なお、現在時価換算の時の金利は5%として計算しています。


 だから、例えば、現時点での年収が1000万円である37歳の人が交通事故で亡くなる場合は、(いま手元に係数表がないので手計算しましたのでちょっと式が違っていたら間違っているかもしれませんが)ライプニッツ係数15.37245なので、1000×15.37245=1億5372万4500円が現在に換算した逸失「収入」であり、仮に本人の生活費控除を30%だとすれば、この70%に相当する1億760万円余が逸失利益として計算される訳です。


 このように、原則として当人が具体的に得られるであろう収入を基礎として逸失利益を計算しますので、高収入の方がなくなれば、また、残された仕事できる期間が長ければ、当然逸失利益も大きくなるわけです。



 では、中国ではどうでしょうか。


 中国の「最高人民法院関于審理人身損害賠償案件適用法律若干問題的解釈」(最高裁判所による人身損害賠償請求事件での法律適用に関する若干の問題の解釈)第29条が次のように規定しています。


「死亡賠償金は受訴裁判所の所在地の1年間の市民の平均収入または農民の平均収入を基準とし、その20年分で計算する。但し60歳以上の場合は、年齢が1歳増加する毎に1年減少させる。75歳以上は、5年で計算する。」


 つまり、前述の1000万円年収のある37歳であっても、上海でお亡くなりになると、上海市の平均年収を基礎として計算されてしまう訳です。上海は勿論かなり高く、2006年で20668元ですが、それでも日本円で直せば、年収31,32万円程度ということになります。中国では、中間利息控除はホフマン式で計算されますので、20年のホフマン係数は13.616068くらい(仮に年利5%とした場合・・・中国の場合日本と異なり、5%と決まっている訳ではない)ですので、全部で逸失利益は28万元程度、つまり、400万円台に留まってしまいます。上海でこれですので、一般的に死亡した人の逸失利益が30万元を超えることはまずないわけです。


 少し説明を省略しましたが、外国人であっても、その事故発生地の市民ないし農民の平均収入を基礎として計算するようです。上海では、これを「基準」としつつ場合によっては弾力的に運用するようですが、日本で計算されたような逸失利益には決してなりません。但し、生活費控除は行われないのが一般的のようです。


 いずれにしても、外国人は中国では死ねません。ちゃんと保険には入らなければ、死んでも死にきれないでしょう。