藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

最高裁判例(最判平成21年7月9日)


 ええっと、当弁護士法人の関与案件の最高裁判例が出ましたので、折角ですからご紹介したいと思います。


 なお、既に最高裁Websiteにもアップロードされていますので、全文を参照できます。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090709152854.pdf


 ある会社(上場会社)の従業員らが、営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載がされ、その後同事実が公表されて会社の株価が下落したことにつき、公表前に同社の株式を取得した株主が、会社の代表取締役に従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があり、その結果、損害を被ったなどと主張して、会社に対し、会社法350条に基づき損害賠償を請求した事案です。


 本件については、一審の東京地判平成19年11月26日(判例時報1998号141頁)が株主の請求を一部認容し、第二審も、会社の控訴を棄却していました。しかし、今回、最高裁は、会社側(当事務所側)の主張を認めて、「会社は、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた」、不正は「巧妙で容易に想定し難い方法によるものであった」と判示して、リスク管理体制構築義務違反の過失がないと判断し、株主の請求を棄却しました。


 本件では、リスク管理体制構築義務違反の過失がない具体的な理由付けとして、?職務分掌規定等を定め事業部門と財務部門を分離し、?事業部について営業部とは別のソフトの稼働状況を管理する部署から、直接財務部に売上報告がされる体制を整え、?監査法人との間で監査契約を締結し、定期的に売掛金残高を確認することとしていた、という事実からすれば、上述の「通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた」と認定し、更に、不正が「巧妙で容易に想定し難い方法」で、かつ、同種不正行為が過去に同社で行われていなかったことから、予見が困難であったと認定しています。


 本最高裁判決は、第1に、十分な体制を整えておれば、不正行為が発覚したことで株価が下落したとしても株主に損害賠償までする義務はないということを認めたという点で意義があると思われます。ただ、逆に言えば、十分な内部統制体制を整えず、また、過去の不正行為から何も学ばずに漫然と第2の不正行為を生じさせる等の事情があれば、その不正行為を原因として株価の低下があった際には、会社が直接株主に対し損害賠償義務を負うことになる可能性も示唆する訳です。内部統制の重要性が会社法下において叫ばれるようになりましたが、その意義・重要性に極めて大きなインパクトがあったのではないかと思料する次第です。