藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

会社分割を巡る近時の判例から(1)


 会社分割の活用がめざましいが,その反動とも言える判例も多数登場している。


1 従前の理解のおさらい

 何故会社分割が注目されるのか?まずここに注目することが重要である。

 破綻直前の企業であるが,過去の重しである債務がキレイになればまだ事業をやっていける,こういう企業は少なくない。そこで,民事再生等の手続を用いることが考えられるが,いきなり民事再生をすれば,法的破綻というレッテルのもと,売上が大きく減少することも予想される。


 当職の理解で言えば,おそよ年商10億円以下の会社が民事再生を使うメリットは,余程の場合でないとデメリットを上回れない。民事再生となれば,裁判所を通じて「正式」な処理が行われる結果,弁護士や税理士・会計士などの費用も馬鹿にならず,また上述の風評被害も相俟って,特に小規模会社の場合のデメリットが大きいからである。


 そこで,法的破綻の前に,優良な事業部門を分割して別会社化し,その会社の株式を譲渡する等によって分割会社から切り離す。その後,分割会社の破産や特別清算手続により負債を整理する。これにより切り出された新会社(新設分割設立会社又は吸収分割承継会社)は,その負債を承継しないことにより,法的破綻を直接は経ることなく事業を継続することができる・・・こういうスキームである。

 
 ここで問題となるのが,新会社につれて行ってもらえず,整理される債権の債権者である。新会社はそのまま事業をするのであるから,旧会社だけ債権の大幅カットを受けるのは不平等に思えるからである。そこで,会社法は,一般には債権者保護手続きを設け,不当な会社分割を防止しようとしている。即ち,(i)債権者に対し,分割する旨,他の会社の商号と住所,両社の計算書類等,異議があれば一定期間内に述べる旨を官報に報告し,かつ(ii)知れたる債権者については個別催告をしなければならない旨が規定されている(会社法789条1項,799条1項2項,810条1項2項)。そして,異議を述べた債権者に対しては,弁済・担保提供・弁済用財産の信託をしなければならない(789条5項本文,799条5項本文,810条5項本文)。


 しかし,この債権者保護手続きは,例えば中国法における会社分割制度と比較すると,大幅に「緩和」されている。


 第1に,分割会社の不法行為債権者である場合を除いては,官報公告に加えて日刊新聞紙による公告又は電子公告をも行った場合には,個別催告が不要となる(789条3項,799条3項,810条3項)。

 第2に,分割会社は,分割が生じても,分割会社から出ていく資産と負債の代わりに株式が分割会社に入り,資産総額に変動がないために,分割会社の債権者のうち,分割後も引き続き分割会社に請求できる債権者については,原則として(いわゆる人的分割の場合等を除く)異議手続を行わなくて良い(789条1項2号,810条2項)。


 この第2の例外を用いると,後に破産・特別清算することになるかもしれない分割会社に取り残された債権者に対しては,何ら債権者保護手続きを取ることなく,つまりは,事前の根回しや同意の取得等をすることなく,会社分割をすることが可能という結論になる。そこで,金融機関から新たな融資を受けることができなくなった破綻直前の会社は,金融機関を敵に回してでも,分割会社に金融機関からの長期借入金を残したまま,直接事業に関係する資産と負債だけを新会社に承継させるということが行われてきている。


 分割したとしても,新設分割の場合,新会社の株式は,引き続き分割会社が100%保有するのが原則であり,吸収分割の場合であっても,分割比率が適正であれば,新会社の正当な割合の株式を分割会社が保有することになるのが原則である。従って,会社分割そのものは,一般には何ら分割会社の債権者を害しない,というのはその通りの筈である。もっとも,その後分割会社がそのまま破綻すれば,分割会社の保有する株式が処分されることになり,新会社を経営することができなくなってしまう。そこで,普通は,分割の後に,新会社の株式を,分割会社から,新会社の経営者に譲渡することが行われる。


 かかる譲渡行為について,仮に適正な価格で行われなければ,詐害行為(民法423条)になり,債権者により取り消される可能性がある。しかし,これが相当価格であれば,上述の銀行等,分割会社に取り残された債権者は,何も文句が言えない・・・。


 勿論,こういう場合のみならず,比較的たくさんの債務を新会社に承継させるパターンもあり得る。というのは,債務を余り承継させないと,新会社の株式の相当価格が高くなりすぎて,株式を買うことができなくなる場合があるからである。


 これが,数年前までの会社分割を利用した会社再建手続に関する理解であったように思われる。


 では,近時の判例は,これにどのような修正をしようとしているのか,講を改めて説明する。