藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

著作権の保護期間

先に書いておきますが、どうも私の考えは相当「少数説」のようであることが徐々に明らかになってきましたが、しかしそれでも、納得がいかないのでそのまま残しておきますね(後記:その後仮処分では私見と同旨)。


サンケイスポーツのニュース速報(http://www.sanspo.com/sokuho/0525sokuho024.html)より。

ローマの休日」DVDの販売中止要求−米会社、著作権70年延長で

映画「ローマの休日」など2作品の著作権を侵害されたとして、米映画会社パラマウント・ピクチャーズ・コーポレーションは25日までに、DVD製造・販売会社ファーストトレーディング(東京)に2作品のDVDの製造と販売差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。

(中略)

2004年1月1日施行の改正著作権法で、同日以降の公開作品は著作権保護期間が50年から70年に延長にされた。

2作品はともに1953年公開で、文化庁は同年の作品から保護期間を70年としているが、一部の会社は「53年の作品は03年12月31日に50年の保護期間が過ぎた」として、安価なDVDを製造販売しているという。

ふむう。なんで仮処分の申立がなされたんだろう。俺の勉強不足かな・・・。誰か教えて。

米国では既に普通に著作権一般にミニマム70年(死後70年or公表から95年)の保護期間があるのだが(ソニー・ボノ法による)、日本はまだ原則は死後/公表後50年で、例外的に映画は公表後70年(著作54条1項)になった。その映画の例外であるが、2003(平成15)年の法改正で、2004(平成16)年1月1日から適用になったのだが、じゃあ、改正前著作権法により、2003年12月31日に権利消滅する(50年経過する)著作権*1はどうなるのだろうか。2023年12月31日(70年)まで延長されるのか。

附則がちゃんと回答をくれている。

附 則 (平成一五年六月一八日法律第八五号)

(施行期日)
第一条  この法律は、平成十六年一月一日から施行する。

(映画の著作物の保護期間についての経過措置)
第二条  改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。

1953年公表の映画の著作物の著作権は、改正前著作権法に基づけば2003(平成15)年12月31日をもって権利が消滅している筈である。従って、これらのDVDは、附則第2条により、「改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物」として、「なお従前の例による」、つまり、やっぱり著作権が消滅したままとなる、というのが回答の筈である。

なお、このような解釈は、もともとMinimum rightsを50年としているBerne条約、TRIPSに違反するものではない。

ちなみに、パラマウント社が米国の著作権保有していると仮定すれば(おそらくしているであろう)、同社は95年の著作権を米国では保有している(1978年1月1日より前に著作権が発生し、かつ当時の著作権法に基づき28年目経過後の更新をまだしていなかった著作物の保護期間は28年+67年=95年)。しかし、米国著作権法違反を日本国内でしか販売されていないDVDについて主張するのは、無理がある(米国著作権法のextraterritoriarity(域外適用)については、商標権ほどは広く認められていない)。もっとも、その大多数が米国に逆輸入された結果として米国著作権法上の複製権や輸入権侵害を主張することはあり得るだろうが、そのようなsubstantive effectがないのであれば、やはりパラマウントの主張には無理があるように思えるが。

インターネット上で販売していることを1つの根拠にすることは可能かもしれないが、もしも販売しているサイトが日本語で書いてあれば、たぶんsubstantive effectはない、ということになるだろうなあ。

ということで、すんません、パラマウントの主張はどうして成り立つのか、きっと米国司法試験にかぶれているので頭が固くなってしまって、うまく思い付かないだけなのだろうと思うので、誰か教えてやってください。

以下、05/25/2006追記

朝日新聞電子版より
http://www.asahi.com/life/update/0525/006.html

 文化庁著作権課は、04年1月1日に施行された改正著作権法によって、03年末まで保護期間があった映画は、保護期間がさらに20年間延長されたとの解釈をとる。「03年12月31日午後12時と改正法が施行された04年1月1日午前0時が接着しているため、改正法が適用される」という説明だ。

 しかし、「53年に公開された作品は、03年末で保護期間がいったん終了して、パブリックドメイン(共有財産)になった」と判断、廉価版などの販売をする事業者もいる。53年公開の映画に人気作品が多いという事情も背景にある。

 北海道大の田村善之教授(知的財産法)は「文化庁の解釈が一般的だ。しかし、そもそも、利用と保護のバランスを考えたときに、70年間も映画を保護する必要があるのかという本質的な問題はある」と話している。

 なんと、文化庁がそういうだけではなく、田村先生(もっとも有名な知的財産権の教授の1人)までそんなことを仰っているのか??
 何故だ???
 接着していても、別の時間だろう???
 例えば、4月末までが支払期日の債務を5月1日に払ったら、これは1日遅滞でしょ?
 たとえ0時であっても。

 おかしいなあ・・・。

 一部のサイトで、「昭和45年の改正の際もそうだった」云々が書かれていた。
 45年改正とは、旧著作権法を現著作権法に全面改正し、保護期間もはじめて50年にまで延長した改正であった(施行は1971(昭和46)年1月1日)。この時の附則であるが、

(適用範囲についての経過措置)
第二条  改正後の著作権法(以下「新法」という。)中著作権に関する規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法(以下「旧法」という。)による著作権の全部が消滅している著作物については、適用しない。
2  この法律の施行の際現に旧法による著作権の一部が消滅している著作物については、新法中これに相当する著作権に関する規定は、適用しない。

とあり、文言としては、今回と変わらないので、45年改正法の文言が文化庁パラマウント側の主張を何か強化するものとは思われないのだがなあ。

 追記:この45年改正法の当時の解釈として、既に文化庁と同旨の解釈があったようです(田村先生の本にそう書いてあるとか)。さすがに手元の日本の著作権法の本にその点を論じているものがないので何ともいえませんが、しかし個人的には、(1)一般にある年で著作権の保護期間が満了するとは、12月31日の終了をもって満了とすることで争いはないこと、(2)一般に法において期間の満了を定める時は、当該満了日の終了をもって満了とするとされていること、(3)著作権法だけ(2)とは異なる解釈を、(明示的に定めたならともかく黙示的に)しなければならない理由がないこと、からして、やはり個人的には、文化庁の解釈には無理があると思うのですが。

 文化庁の「接着」理論がおかしいのは、次の例で考えれば明らかだと思います。
 なるほど、2003年12月31日午後11時59分59秒から2004年1月1日午前0時丁度までは「一瞬」です。しかし、我々は普通これを別の時と考えます。1秒もないと考えるから分からなくなる。例えば、20世紀と21世紀も「接着」しているが、100年も異なる区分です。2000年12月31日午後11時59分59秒と2001年1月1日午前0時丁度も、同じくらい「接着」しているけど、我々は別の世紀と考えます。12月31日だけ21世紀に認めてあげよう、なんて考え方が出てくるとは思えません(※中華人民共和国は2000年を21世紀として考えてしまったので、そこだけは例外ですが)。


 なお、米国の著作権法が1976年に改正された際は、実は既に保護期間が満了した著作権を一部1978年より「復活」させています。しかしこれは、明文をもってそのように解釈できる場合ですので、日本の昭和45年改正法および平成15年改正法にそのままその理屈を持ち込むことは危険だと思います。

 いや、勿論権威ある著作権法の大家の方の意見ではないですが、私はやはりDVD販売会社の方が、一般的な法解釈論として正しいように思います。

 いやしかし、仮にそういう争いがあるとしても、果たしてこれで仮処分が認められるのか、気になるところだ。私個人としては、DVD販売会社の主張に分があると思うが、なるほど、パラマウント側の主張にも根拠が全くない訳ではない。そういう場合に、本案ではなく仮処分でどこまで認める気があるのか。仮処分の本旨に戻れば、こういう場合には本案で解決すべきで仮処分で解決すべきではないと思うのであるが、どうなるだろうか。

 まあ、それよりも、こういう面白い事件を学問としてではなく、債務者(債権者)代理人として出頭できる弁護士さんが羨ましいですね。帰国したら私のところにも来てくれるかな。ああ、成績悪いって↓に書くんじゃなかったかな?

*1:映画のように公表時起算主義を取る場合は、公表した日の属する年の翌年から起算され、保護期間はその年の最終日で満了する。保護期間が50年であるとして、1953年公表の作品であれば、54年1月1日から起算され、2003年12月31日で権利消滅する筈である。