藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

2回試験

 新聞報道等によると、第59期司法修習生の2回試験(卒業試験)で3桁の不合格・合格留保者が出たようだ。

 まず、私の頁を読んで下さっている多くの方がご存知だろうが、念のため不合格と合格留保の差を説明したい。不合格は文字通り、もはや法曹(裁判官、弁護士、検察官)としてやっていくことはできない、追試も受けられないという死刑宣告であり、これが司法試験合格者であるにもかかわらず10名も出たというのだから驚きである。合格留保は、要は追試を受けられる身である。これが97名も出たというのも驚きである。おそらくいずれも過去最高の数だろう。

 これで一概に59期ができない、ということにはならない。一発試験だし。ただ、周囲から、質が下がったという目で見られることは、増えてくるかもしれない。ただ、今年の不合格・留保の水準は分からないが、例年教官たちが言うことでいえば、本当はこの3倍、4倍の留保者がいるが、合格水準を下げて、なんとか救済し、それでも救済する余地のない点数になってしまった、そういう水準である可能性がある。


 いよいよ日本の法曹の大量増員が本格化した今、質の低下が現実の問題となってきた、といえるのだろうか。

 そのいわゆる「質の低下」を、社会が、あるいは法律事務所が受け入れられるかが問題となっている。


 質の低い法曹でもいないよりはいた方が、社会全体にあまねく法曹が行き渡って良い、と考えてくれているなら、これでいいのだろう。


 しかし、法律事務所という立場から見れば、ちょっと違ってくる。我々も、敢えて他の事務所に依頼せずウチに来てくださっている依頼者のことを考えれば、決して弁護士の水準を下げることはできない。特に東京の事務所との競争になってきている昨今、簡単に新人の水準を下げれば、事務所の死活問題である。下げる位なら採用しないだろう。


 そういえば、こういう話がある。弁護士会では、過疎対策を支援するため、過疎地で働く気概を持った修習生の研修のために、まず数年都会の法律事務所で働き、それから田舎へ行く、そういう働き方を支援する事務所を広く募集している。私たちの事務所も、その理念に共鳴し、今年まで『弁護士過疎対策協力事務所』として弁護士会に登録してきた。修習生の事務所訪問も、こういう名目で応募してくる人には別枠で対応してきた。ところが、実際は、そこで応募してくる修習生の多くが、実は過疎対策のために頑張ろうという人ではなく、都会で働く事務所を普通には見つけられないので、こういう枠で都会の事務所にもぐりこもう、という考えを持っている人だった。私たちの事務所はこういう現実を見て、もしかしたら来年以後、そういう登録をやめてしまうかもしれない。


 修習生は増える、しかし、取りたい修習生は減る。そして不合格・合格留保の修習生も増える。少なくとも法律事務所という立場からは、法曹の質的な低下は、受け入れられない。合格者が300人になっても5000人になってもいい、問題は質じゃないか、そんな気がしている。