藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

プライバシーってなんだろう。ネット上での判決掲載から考える。


 法曹関係者なら誰でもチェックしている「ボツネタ」を読んでいて、最近最高裁が、当事者からのクレームによって掲載していた判例を掲載しないことにした、ということを知りました。

 しかし、判決とは、そもそも公開法廷で読まれるものです。そして、日本でも、知財関係の判例については、基本的に全件(少なくとも東京・大阪地裁・知財高裁係属のものは)ネット上で公開されています。ただ、他の案件では、どういう判例がネット公開されているか、よく分からない。基準が不明確なのだ。

 ネット公開される場合、日本では当事者のうち自然人は匿名化されて公開されます。プライバシーへの配慮である。従って我が国で論文などで判例を引用するときは、当事者名を書けないことが多い。単に「最判平成18年2月1日」としか書かないし書けない。


 ところが米国では、様子が違う。


 例えばニューヨーク州の第1Departmentの判決結果、見ますか?

http://www.courts.state.ny.us/reporter/slipidx/aidxtable_1.htm

 もっと見やすい(と思う)カリフォルニア州の判決結果、見ますか?

http://www.courtinfo.ca.gov/opinions/
(UnpublishedとPublishedで頁が違います。注意して下さい)


 日本の「常識」で見てしまったら、びっくりです。そうです。今やアメリカでは、裁判は確かに法廷で行われますが、別に「霞っ子倶楽部」化しなくても、ネットでほぼ追えるのです。連邦はまた別ですが、無料です。いわゆる判例集掲載されない裁判例であっても、一定の条件のもとで公開されているのです。そして、当事者名も匿名ではありません。判例を引用する際、日時よりもまず、"Roe v. Wada"と当事者名を挙げるのが普通です。


 裁判で提出された書面を全部公開してしまう、といった行き過ぎは良くないでしょう*1。しかし判決結果というものは、その後の紛争解決にとって有益なヒントが詰まっているもの。日本でも、原則全件公開、としてはどうでしょうか。そして、日本では自然人の当事者名は匿名化される。それで十分じゃない??>プライバシーへの配慮も。それを超える利益が、あるような気がします。

*1:例えば裁判目的で会社法(当時の商法)上の手続を利用して株主が取得した取締役会議事録を無断でネット掲載した件につき不法行為が認められた事例があります。