藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

司法の未来は明るいか(1) 1000億円の行方


 最近のニュースから、弁護士の将来のことについて気になるものを何回か連続で取り上げてみたいと思います。別に大して驚くべきニュースではないんですけどねぇ。。。


 ボツネタによれば、日本の弁護士は、過払い金の返還請求という法律業務で、1000億円規模の収入増があったらしい。


 過払い金の返還とは、多くの方に説明不要かもしれないが、念のため。

 消費者金融業者から借りたお金の金利は、29.2%など、利息制限法という法律が定めた金利よりも高い。特定の条件を充足する場合のみ、利息制限法よりは高い、出資法に定める金利よりは低い金利で貸付を行うことが許されているからである。このような、法律違反のようで法律違反ではない金利のことを、グレーゾーン金利と呼んでいる。

 ところが、近時の最高裁判例最判平成18年1月13日)によれば、この例外的に許されるグレーゾーン金利の要件が、業者側が考えてきたものよりも、かなり厳格に解釈されることとなり、業者は殆どの場合、借り手からグレーゾーン部分と利息制限法の金利の差額部分を返せ!と言われたら、返さなければならないことが明確となった。かかる裁判と相前後して、経済的に破綻した消費者による、消費者金融業者に対する、この金利の差の分の「過払い」を返せ、という請求をすることが非常に増えてきたのである。


 かかる仕事は、弁護士にとってもある意味「楽」である。何故なら、業者が応じれば、その「取れた」お金から報酬を取得できるからである。分かって頂けるかなあ・・・。例えば、もしもお金を返せという訴訟で、被告側の代理人となった場合、被告が勝訴したとしても、被告は実際には何もお金を取っていない・・・単に返す義務がないことが確認できただけ・・・から、弁護士報酬を相手から取得したお金によって充当することができない。依頼者にとっては、訴訟に勝ったけど、弁護士報酬分は自分のお金から払わなければいけない。弁護士からすれば、弁護士報酬を貰いにくいのである。もっと極端なたとえを使うなら、元寇を考えて貰えばいい。鎌倉幕府は確かに元寇をやっつけた。ところが、いわば外敵から自国を守るという「被告」側の戦いだったために、幕府が「ご恩と奉公」のために与えてやる土地を得ることができなかった。結果、十分な恩賞を武士は幕府から得ることができなかった。一般に被告側の代理人をするときは、この鎌倉武士のような「危険」がある訳である。しかし、貸金返還請求事件の消費者側代理人の場合は、そんな「危険」はない。


 さて、もとの記事が手元にないので、何とも言えないが、そのような過払い返還請求による弁護士報酬の増加が1000億円もあった、ということである。これを仮にざっくり5年で生じたものだとすれば、1年あたりの増加額は200億円。弁護士は2万3000人だが、ざっくり2万人だとすれば、1人あたり年間100万の弁護士の収入増が、あったことになる。


 ところが、この消費者金融業者による過剰な貸付が社会問題となり、また上記最高裁判決を受け、昨年、このグーレゾーン金利を法律によって原則廃止することが決まり、3年以内に実現されることとなった。ということは、現在生じている、この種の事件による弁護士の収入増は、いずれなくなる、ということである。なぜならグレーゾーン金利がなくなる以上、「過払い」は将来において生じなくなるからである。


 この種の事件がなくなることは、大変良いことである。そもそも「二重基準」はとても分かりにくかったし、過払い請求する人だけ低い金利の恩恵を受け、そんなことができることを知らなかった人だけ高い金利を払い続けるのは馬鹿げている。


 ただ、弁護士の仕事として見た時はどうか。個々の弁護士がどの程度1年間に売上があるかは、全く不明であるが、仮にざっくり平均して3000万円の収入(所得ではない)があったとすれば、3%程度の減少となる訳である。3%と考えれば影響は大きくないようにも思うが、これは私の独断と偏見も混じっているが、特定の法律事務所や、企業の顧問先を持たないような若い弁護士は、特にこの種の事件に依存していたようにも思われる。


 日弁連は、弁護士の急増という現実に対処するため、近時「1人事務所」に対し、新たに新人弁護士を採用するように強く呼びかけている。大手の法律事務所は引き続き急激な採用を続けるだろうが、私の「50大法律事務所」でも解説したとおり、日本の50大法律事務所で吸収できる新人弁護士とは、1年間に誕生する弁護士が1500人であった時代においてでさえ、せいぜい20%程度であった。ということは、3000人時代を迎え、仮に「1人事務所」で十分に弁護士の採用が吸収できないのであれば、本当に弁護士事務所に所属できない弁護士が相当数誕生してしまうことになる。


 そして、この3%という収入減は、おそらくは、大きな法律事務所よりは小さな法律事務所に、古い法律事務所よりは若い法律事務所に、より直接的影響を与えるのではなかろうか。そうだとすれば、いま日弁連が呼びかけている「1人事務所」による採用増は、画餅となってしまうのではないだろうか。


 もしも近時の司法への需要増が、「過払い返還」特需に依存しているものとしたら、そして、その特需の恩恵が、本当に小さな、新しい事務所に偏っているとするなら、数年後に完全に実現する年間3000人という新人弁護士達が、司法という市場に新たに登場する際は、えらい苦労をすることになりそうである。