藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

爆笑問題田中が皐月賞で万馬券GETしたが・・・。


スポーツニッポン2007年4月18日付紙面記事【田中“爆勝”的中797万円でした 皐月賞
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2007/04/18/01.html

15日に中山競馬場で開催されたG1「第67回皐月賞」で3連単162万3250円を的中させたお笑いコンビ「爆笑問題」の田中裕二(42)が17日、東京・赤坂のTBSで“大当たり会見”を行った。元手は4万3000円で、3連単馬連で合計797万8000円をゲットしたことを公表。口元が緩みっぱなしで「自転車買おうかな」と大きな?夢を語った。

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 3連単200円を90通り、馬連5000円を5通りの合計4万3000円が797万8000円に大化けしたが、「怖くなって」友人に換金してもらい、紙袋に入った大金を抱え、即タクシーで帰宅した。

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 大金の使い道については、すでに、太田も含め所属事務所のタレント、スタッフら約20人に10万円ずつ“小遣い”として配分。出演番組関係者と食事会も開く予定。税理士に相談したところ、税金で半分くらいになると言われ「残っているうちに自転車でも買おうかと」と、この時ばかりは寂しそうに話した。


・・・おっと、半分にはならないって。
分かり切っていることかもしれませんが、せっかくネタを提供して貰ったので、少し述べてみましょう。


宝くじは非課税、でも馬券は確かに課税


 個人がなんか所得を得れば、所得税が課税されます。
 しかし所得の種類によって、計算の仕方はちょっとずつ変わります。私が弁護士事業で得た所得は「事業所得」、私が被用者として事務所から貰う給料で得た所得は「給与所得」、馬券などこの種の不労所得は「一時所得」という分類になります。


 ちなみに、宝くじの当選金は所得税法だけを眺めたら馬券同様、本来一時所得に該当すべき所得となる筈なのですが、別の法律(当せん金付証票法第13条)によって、所得税が課税されないことになっています。ところが馬券の場合は、そんな特例法がないので、所得税が課税されるわけです。


一時所得の計算


 では、具体的にいくら本件で所得税が課税されるのでしょうか?
 結論から言えば、田中さんの全体の所得や家族構成等が分からないと計算できないのですが、できるところまでやってみましょう。

 まず、一時所得の計算方法ですが、

(収入金額−必要経費−50万円)×1/2

 です。


 本件の場合、馬券による「収入」は797万8000円、「元出」は4万3000円なので、

 収入金額=797万8000円、必要経費=4万3000円とすると・・・
 (7,978,000-43,000-500,000)×1/2
 =371万7500円

 となるのですが、実は必要経費は4万3000円になりません。
 というのは、当たり馬券は、3連単の200円分と、馬連の5000円分でしかないからです。必要経費は5200円で計算するのが今の実務です。でも、確かに4万3000円の元出で買っている訳ですから、他の外れ馬券を「必要経費」と考えないのは、ちょっと納得できないんですけどね・・・。


 ということで、正しい計算は、
 (7,978,000-5200-500,000)×1/2
 =373万6400円


 となります。


一時所得の意味


 あれ、797万のうち373万も課税の対象になる一時所得になるのだから、爆笑田中の「税理士に相談したところ、税金で半分くらいになる」という発言は正しいのでは?と思うかもしれません。しかしあくまでここまで計算は、税金そのものを計算したのではなくて、課税の対象となる所得の一部、本件では一時所得という数字を計算したに過ぎません。

 ですから、この「一時所得」が全部税金となることでもない限り、爆笑田中の発言は間違っている、ということになります。


じゃあ税額は?


 じゃあ、実際いくら一時所得に課税されるのでしょうか?

 まず、税率は、総合課税される所得全体に対して何%と決まっているので、他の所得、田中さんの場合は、事業所得か給与所得か、その双方か分かりませんが、そういう他の所得の合計額が分からないと、何%とは言えないのです。

 そして、ここでいう所得は、いままさに一時所得の計算でも、実際の入ったお金から50万引かれた上で1/2倍されたのと同じように、他の所得項目でも、色々な「引き算」がされますので、いわゆる「手取り」額と同じではありません。例えば、これはパートのおばちゃんには有名な例ですが、年間の給与(額面)が103万円の場合は、給与所得の「概算控除」と呼ばれる計算で、給与所得が38万円しかない、という計算になるのです。この基礎控除は、収入が増える程小さくなります。


 田中さんは売れっ子なので、様々な経費や控除を考慮したとしても、所得は3000万円はある、と仮定しましょう(これは上記一時所得373万6400円を含みます)。

 この所得である3000万円に丸々税金がかかると仮定した場合の税額は、所得税では1033万8000円、この所得を基礎として計算される住民税の場合は300万円です。つまり、合計すれば1333万8000円が税金となる訳です。3000万円という高い所得を基礎としているので、税金はかなり高くなります。


 おっとここでまた、爆笑・田中さんの発言を思い出しましょう。確かに所得3000万円から見れば、44%を超える額である1333万8000円もの所得税を払わなければいけない、ということで、「税金で半分くらいになる」というのは、間違っていないように感じるかもしれません。しかし、注意したいのは、あくまで「所得」の44%です。思いだして下さい、そもそも「一時所得」を計算する際に、実際の当選金額からは馬券代と、50万円が引かれ、さらにその合計を1/2しているのです。


 ところで、馬券が当たってなかった場合は、所得が373万6400円だけ小さくなっていて2626万3600円だった筈です。この場合の所得税は884万3200円、住民税は262万6300円となり、合計の税金が1146万9500円となります。つまり、馬券の当選によって、所得税・住民税合わせて186万8500円、税金が増えたということになります。

 これは、当選金額である797万8000円からすれば23.4%程度ということになります。


所得控除


 さて、ここまでの計算は、所得の合計に単純に税率をかけたのですが、実際は、その税率のかけ算をする前に、所得控除という計算をすることになっています。一番有名なのは、「基礎控除」でして、誰でも38万円は所得金額から控除されます。さきほど、給料が103万円の場合は、給与所得の概算控除によって、給与所得が38万円になると言いましたが、そのような人の場合は、この基礎控除38万円によって、課税の対象となる所得が0円、ということになります。

 所得控除には、基礎控除の他にも、配偶者控除配偶者特別控除、扶養控除、医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、等々があります。ですから、仮に田中さんが3000万円の所得があったとしても、課税の対象となる所得(課税標準)は、3000万円よりは相当低くなります。絶対に38万円は基礎控除で引かれますし、田中さんのような儲かっている人の場合は、おそらく社会保険料も相当とられていると思われます。とすれば、さきほどは馬券当選額の23.4%が田中さんの場合の所得税だと言いましたが、この率ももう少し下がるということです。


もしも田中が売れていなかったら・・・


 ところで、もしも爆笑問題が売れっ子芸人ではなく、今回の馬券以外の収入が給与額面で300万円程度しかなかった、と仮定したらどうでしょうか。


 この場合も、一時所得は373万6400円なのですが、給与所得が概算控除もあって、192万円にしかならないので、所得の合計は、565万6400円になります。基礎控除38万円のほか、社会保険料控除等がありますので、実際の課税対象となる所得は、500万円を下回るのは確実でしょう。一応、基礎控除しか所得控除がなされず、課税対象となる所得が527万6000円だったとして計算すると、所得税は62万7700円、住民税が52万7600円となり、115万5300円が税金となることになります。実際はもっと所得控除があると思うので、税金ももう少し安くなります。


 もしも馬券が当たってなかった場合は、所得が373万6400円だけ小さくなっていて給与所得のみの192万円となった筈です。この場合で、かつ所得控除が基礎控除しかなかった場合の所得税は7万7000円、住民税は15万4000円となり、合計の税金が23万1000円となります。つまり、馬券の当選によって、所得税・住民税合わせて92万4300円、税金が増えたということになります。

 これは、当選金額である797万8000円からすれば11.6%程度ということになります。


小結


 ということで、馬券の当選金は一時所得で、確かに所得税(と住民税)が課税されるのですが、「税金で半分くらいになる」ということはなく、かなり儲けている人でも、増えてしまう税金は、この程度の当たり馬券の場合、当たりの額の24%を超えることはなさそうだ、ということになります。普通の所得の人であれば、10%台になる筈です。


※おことわり

 手計算しましたので、細かい計算は間違っているかもしれません。記載の情報に依拠されて行動されても藤本は何の責任も取れません。