藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

疑惑の処理


 司法試験ネタが多くなって申し訳ないです。

讀賣新聞2007年8月3日午後10時58分電子版
【新司法試験の慶応大類題指南、法務省は得点調整せず】
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070803i314.htm

 法務省が今回、メールの内容を調べたところ、「重要そうなもの」と紹介された国民健康保険料に関する判例が、マークシート式の短答式試験でそのまま出題されたことが確認された。採点が終了しているこの問題の正答率を分析した結果、20%台だった全体平均(慶応を除く)に比べ、慶応の修了生の平均は4〜5ポイント高かった。

 ただ、慶応よりも正答率が高い法科大学院も12校あり、同省は「受験者なら当然勉強しておくべき重要な判例で、慶応の正答率が不自然に高いとは見えない」と判断した。

 また、植村教授が事前に判例を教えた、外国人の退去強制処分に関する問題も、論文式試験で出題されていた。論文式は採点が終わっていないが、同省は「この判例を知っていたから試験で有利になるとは言えない」とし、採点面での考慮はしないという。今回の調査結果を踏まえ、同省の司法試験委員会は3日付で、慶応大に再発防止を求める文書を送った。


 一定の調査結果を法務省が発表したようなので、その事自体は評価できることだと思います。


 ただ、この件で、再発防止策を講じるべきなのは、法務省司法試験委員会じゃないのかなあ、と思うのは、間違いでしょうか。いや、勿論慶應はしっかり反省して貰わないと困ります。この事件のせいで、慶應ロー生が採用等で不利益を受ける可能性だってないとは言えない訳で、法曹養成機関こそ、公正さのために襟を正さなければなりません。しかし、法務省司法試験委員会の方には、より大きな責任があるように思います。何故なら、自らが任命した委員で問題が生じた訳ですから、その任命責任があるように思うのです。言ってみれば、一種の使用者責任です。試験委員には、もっと実務家、それも大学院で授業を担当しない実務家の比率を高めるなり、一定の再発防止策を、法務省が自ら検討すべきでしょう。


 もう1つ、結果として、有意なる差が生じていないとしても、そもそも試験の公平さが損なわれたという点は、どう処理するのでしょうか。得点調整しないという決断それ自体は正しかったと思うのです。慶應の学生の誰が有利な情報を知っていて、それ以外の誰が知らなかったか不明なわけですから、得点調整しようがないです。試験の公平さが損なわれたということが、新司法試験、あるいは法科大学院制度全体の損失であり、この抜本的な対策は、勿論法的にも実務的にも非現実的であるというそしりを受けるとは思いますが、基本的には再試験しかなかったように思います。


 再試験や得点調整をしないという決断自体は、現実的だったかもしれませんが、この試験の公平さが損なわれてしまったことへの危機感があれば、法務省司法試験委員会そのものが、このタイミングで再発防止策を公表する等、一定の対応をすべきだったのではないでしょうか。


 法曹が沢山生まれて競争となるのは歓迎。でも、誰も法曹を尊重せず、信頼せず・・・となるのであれば、やはり困ります。今からでも遅くないので、法務省司法試験委員会にも、再発防止策を求める次第です。