藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

飛行機事故の損害賠償


 ご承知のとおり、台湾の中華航空機が沖縄で炎上しました。


 私は今でこそ年に何度も航空機を利用しますが、それでも元来飛行機嫌いですので、本当に恐ろしかったです。特に私、まもなく再び米国→日本→上海と移動する訳でして・・・。


 まずは、事故に遭わないように、自分の身を守る対策をいくつか立てておかなければなりませんね。航空機の中で携帯電話の電源を切る、つけている奴がいれば注意する等々、少しでも事故の確率を下げる方法は、乗客にもあるわけで。


 そして、我々日本人としては、太宰府の「航空お守り」を手に入れるというのも、1つの対策かもしれませんね。私はいつも持っています(そろそろ新しい奴を手に入れなければいけないのでしょうが、太宰府まで行く時間が・・・)。仮に事故の確率が下がらなかったとしても、周囲を少しでも安心させる効果があるとすれば、それはそれで1つの立派な対策でしょう。



 勿論安全な航空会社を選ぶというのも大事ですね。
 更に、万一死亡等したときにどうなるか、を正確に知っておくことも、対策の1つでしょう。
 ぶっちゃければ、損害賠償がどうなるか、は重要な論点だと思います。


 特に今回の事故で思い出されるのは、同じ航空会社で発生した、1994年の名古屋空港中華航空墜落事故(乗客・乗員の271人内、264人が死亡し7人が重傷を負う大惨事)です。当時、裁判において、中華航空は、へーグ改正ワルソー条約*1の22条による責任制限条項の適用により、1人あたりの損害賠償額は、25万フラン*2または16,600 Special Drawing Rights ("SDR")*3に制限されるという主張を行ったのでした。


 これに対し、原告側は、同条約25条*4の適用により、責任制限条項の適用がないと主張しました。機長の操縦は異常なもの、つまり、故意、ないし事故が十分起こり得るという認識がありながらも無謀にも行った行為(重過失)に基づくものであって、22条の制限に縛られずに、本来発生した全損害を賠償請求可能であると主張したのです。


 結果的に裁判所は、原告の主張を受け容れ、ワルソー条約22条の制限を認めませんでした。


 しかし、飛行機事故に限って、原告側が、被告側の重過失を証明しなければ損害賠償額の制限を受けるというのは、乗客や遺族にとって非常につらいものです。たまたま1994年の中華航空墜落事故では、機長が何をしたかが明白で重過失が証明できたけれども、ボイスレコーダーも残らないような墜落事故で、事故原因が不明だった場合、たかだか240万円前後で命を売らねばならないとなると、死んでも死に切れません。


 現在では、1999年に締結され、2003年11月4日に発効したモントリオール条約という条約*5で、条約加盟国については、かかる制限は撤廃されています。少なくとも100,000 SDR*6までは無過失責任、つまり航空会社側に過失がなくても支払われる損害賠償額となり、それを超えても、損害賠償額の上限なく過失責任が推定されるため、事故による損害が仮に1億円であることを原告が証明すれば、1億円の損害賠償が成立することになります*7


 ということで、モントリオール条約の締結国間の飛行*8であれば、損害賠償の上限で悩む必要はなくなりました。どこが締結国か、については、International Civil Aviation Organizationの該当頁をご覧下さい*9。お、中華人民共和国も2005年より締結国になっていますね!香港も大丈夫なようですが(リンク先の注18を参照のこと)、台湾はどうもまだのようです・・・。

 
 ちなみに、条約の適用がなくても、運送約款によって同種の手当がなされている可能性はあります。例えば、日系航空会社は、モントリオール条約発効前から、損害賠償額の上限を約款上撤廃していました。
 

 逆に、条約の適用がある筈なのに、航空会社の運送約款上、損害賠償額の上限が定められている場合は、約款が当該部分において無効であると解釈される必要があります。この点モントリオール条約26条が条約抵触部分については運送約款を無効とする旨を定めていますので、大抵は無効となると思いますが、法廷地が第三国の場合、100%そのように解釈されるという保証はないので注意が必要かもしれません。


 ・・・

 日本、アメリカ、中国(中華人民共和国)とも、現在はモントリオール条約の批准国のようですので、取りあえず安心して?飛行機に乗ろうと思います・・・*10


 ちなみに・・・余計なお節介ですが、旅行会社の中には、いまだに古い条約関係の「約款」を航空券販売の際に説明していらっしゃる方や、モントリオール条約と、モントリオール協定(対米航空路線の損害賠償の上限を一般に7万5000ドルとした協定)を混同しているものがあったりしますので注意です。

*1:Warsaw Convention, as amended at the Hague 1955 and by protocol No.4 of Montreal 1975

*2:今日の相場でいえばおよそ240万円

*3:簡単に言えばIMFが定める国際通貨のパケットみたいなもの。16,600 SDRは、今日の相場でいえばおよそ290万円

*4:In the carriage of passengers and baggage, the limits of liability specified in Article 22 shall not apply if it is proved that the damage resulted from an act or omission of the carrier, his servants or agents, done with intent to cause damage or recklessly and with knowledge that damage would probably result; provided that, in the case of such act or mission of a servant or agent, it is also proved that he was acting within the scope of his employment.

*5:CONVENTION FOR THE UNIFICATION OF CERTAIN RULES FOR INTERNATIONAL CARRIAGE BY AIR DONE AT MONTREAL ON 28 MAY 1999

*6:約1700万円

*7:ただ、何処の国の法律に従うか、何処の裁判所で裁判を行うかによって、「命の値段」の計算方法が著しく異なります。今回はこの点を論じませんが、運送約款に航空会社の国の法律を準拠法と記載されていることが通常であり、事故の場所や法廷地によってはかかる約款の準拠法の指定が有効とされて、または法廷地が別途準拠法を指定することにより、思いもよらない国の法律に基づき損害賠償計算方法が採用される可能性がある点に注意が必要です(例えば、中国の航空会社では運送約款で中華人民共和国法を準拠法とするでしょうから、仮にこの点が認められれば、日本で1億円となる損害賠償額が同じように1億円にはなりません。)

*8:大事なのは、国際便でないとこの条約の適用はないことです!

*9:なお、渡航相手国がモントリオール条約の批准国でなくても、一方が批准国である場合は、なおモントリオール条約で保護される場合があります

*10:しかし中華人民共和国国内線だとかなりやばいようです・・・。死んでも7万元=110万円くらいという話もあります。。。