藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

Supercityと財産分与


 上海では、日本人向けにいくつかのフリーペーパーが発行されています。
 たとえば「Whenever」「Supercity」という名前は、上海に住んでいる方なら聞いたことがあるのではないでしょうか。


 現在お世話になっている事務所では、このうち、「Supercity」に記事を書くことがあります。こちらにお世話になるようになってから、全ての記事ではありませんが、そのうちいくつかについて、雑誌社側に出す前に意見を求められることがありますので、さあっとチェックする機会があります。


 弁護士事務所側は、非常に基本的な法律問題ばかり選んでいるのですが、4つ(日本、中国、ニューヨーク、カリフォルニア)の法律領域を知っていると、色々追加して書きたいことが出てきたりします。また、中国人の方が書いておられることが違う、と思うようなことも結構あって、事務所側は単に日本語のチェックくらいしか期待していないんだと思うのですが、大幅に内容を変えてしまうこともあり、事務所を困らせてしまっています。結果として、私が全く見ていない分が掲載されてしまった月もありました・・・ははは。


 今日見ていたのは、おそらくSuperCity(上海版です)の2月号(といっても春節があるので配布はいつなんでしょうねえ)の分なのですが、ここ3ヶ月は中国での離婚特集を掲載しているようです。2月号(多分)では、財産分与に触れる予定ですが、財産分与は、結果としては、各国、各法領域大差がないようでも、考え方が色々違っていて、おもしろいところです。1200字(Super Cityの制限)ではとても書けないので、ちょっとそのあたりを紹介したいと思います。


 まず、夫婦の財産とは、どんな状態が考えられるでしょうか。基本的には3通りで、夫の個人財産、妻の個人財産(日本法では、それぞれの「特有財産」という呼び方をします)、それと共有財産です。次にこの財産を分ける必要があるのはいつでしょうか。これも基本的には2通りで、離婚の時と、死別の時の2通りです。前者は夫婦間の分割が問題となり、後者は、生存する配偶者と他の相続人間の分配が問題となる訳です(後者はこれも各国の微妙な相違が面白く、私的にはカリフォルニア式で良いのになあ、と思う点も多いのですが、今回は記述の対象外です)。


 さて、それでは日本法ではどうなっているか、をまず確認しましょう。
 夫婦の財産関係は、民法で定められています。なお、民法と異なる夫婦財産関係を定めることも可能ですが、これは婚姻の届出前に登記しなければいけないそうですが、誰もそんなことをしやしないでしょう・・・。

 で、夫婦の財産ですが、それぞれが婚姻前から有する財産および婚姻中自分の名前で得た財産は、個人財産(特有財産)になります(民法762条1項)。そのあたりがよくわからん財産は、共有財産と推定されます(同2項)。そうすると、夫の給料は、婚姻中は夫婦のもの、ではなく、夫のものということになります。じゃあ、専業主婦の妻は法的には夫に生活費を払えといえないのか?小遣いをくれといえないのか、といえば、夫婦はすべての婚姻費用(生活費)の分担をしなきゃいけない(760条)と定まっていますので、当然いえるわけですが、しかし、当然に、理由もなく、ジャイアンのように「おまえのモノはおれのもの、おれのモノはおれのもの」とは言えない、ということになります。

 
 ここまで見ればわかりますが、夫婦間で共有財産というのは、日本法上はかなり限定的で、預金でも家でも、形式的にどちらかの名義であるだけでなく、実質的にもどちらか一方の所有ということになるのが日本法の原則です。これは、戦前の家制度に対する反動(妻も自分で財産を持てるようにする)もあったのではないかと思います。


 そうしますと、離婚の際に、夫婦の共有財産だけを分割しても、専業主婦には酷な結果になります。
 そこで日本法上の離婚では、相手方の個人財産も含めて、全ての夫婦の財産を分母として、財産の分与が行われることになるわけです。従って、婚姻期間中に個人財産が殆どなかった専業主婦をしていた妻であっても、相応の財産を夫から分けてもらうことができるわけです。いま現実化していない財産であっても、例えば将来の夫の退職金だって、婚姻期間中に見合う部分はわけてもらえる(但し、将来発生しない確率があるので、その分は減額されたり一定の考慮がなされる可能性があります)ことになります。


 ただし、やはり相手の個人財産、自分の財産ではない財産を分けて貰う訳ですから、理由なくなんでもわけろ、ということができる訳ではありません。民法768条3項は、「その協力によって得た財産の額その他一切の事情」を考慮して財産分与するかどうか、分与の額、分与の方法を決める、と定めています。一切の事情を考慮することにはなっていますから、かなり広い枠ではあるのですが、例えば、夫がすごい努力と才覚で巨額の富を得た場合に、それを専業主婦として妻が家事で協力した場合、機械的に「その富をえるための努力と才覚」と「家事による協力」を50:50として対等分割することは稀です。まあ、90:10とかってことはないでしょうか、60:40とか、さじ加減されることが多いように思います。
 また、技術的な問題ですが、不動産をわける場合、もともと夫のものを妻にわけることになるので、譲渡所得税がかかってしまい、全部対等にわけてしまうと夫がソンをするということも、対等分割にはネックとなっているように思います。
 そのほか、婚姻前の財産、一方の親族が死亡したこと等によって取得する相続財産等、「その協力」とは関係なく得ることができた財産については、一般に財産分与の対象にはならないと考えられています(もっとも一切の事情を考慮しますので、絶対にならないか、といわれるとなる可能性もありますが)。


 理論的には全然違うのですが、離婚時の結論的には近い感じになるのが、カリフォルニア法ではないでしょうか。米国の中でも、カリフォルニア州など9(たぶん)の州では、Community Propertyという夫婦共有財産制度を採用しています。ちなみに、私がも1つアメリカで司法試験を通った州であるニューヨーク州はこのCommunity Propertyという制度を採用していません。


 Community Propertyとは、要するに、夫婦共有財産の意味だと思って頂ければいいです。カリフォルニア州家族法(Family Code)760条によりますと、要するに、婚姻中にカリフォルニアで獲得した全ての財産は原則として別途の合意等がない限りこのCommunity Propertyになります。日本は、例えば夫の給料はまずは夫のもの、でしたが、カリフォルニアでは、夫の給料も妻の給料も、婚姻中に取得したものであれば、全て2人のモノ、Community Propertyに属することになるわけです。ジャイアンが目指した「おまえのモノはおれのもの、おれのモノはおれのもの」が、ここではまあ一応実現しているようにも見えます(おれのモノはおまえのものでもある、という点を除けば)。ちなみに、これだけを読んでカリフォルニアが良いと思うのは少し早いです。基本的なことになりますが、全部共有原則となりますと、例えば、夫がすぐ借金をしちゃうような性格だった場合、日本であれば、奥様の財産は別の財産ですから、これを借金取りが持って帰ることは実体法上もできないわけですが、カリフォルニアでは、少なくとも実体法上は債権者がCommunity Propertyを持って帰ることができるわけです。


 Community PropertyにならないものがSeparete Propertyです。カリフォルニア家族法770条以下によれば、婚姻前の財産の外、相続や贈与で取得した財産、Separete Propertyの利息や配当で取得した財産などは、Separete Propertyになります。


 じゃあ、離婚の際にはどうわけることになるのでしょうか。
 離婚の際、夫婦が上述のCommunity Propertyのみを対等分割するのが基本です(カリフォルニア州家族法2550条)。ただ、Separete Propertyの中にCommunity Propertyが混じっていたり、その逆があったりしますので、実際にはSeparete Propertyから相手方に財産が調整のために交付されるということはあります。例えば、日本法の場合にも説明した将来の退職金ですが、離婚時に発生していないお金ですので、退職する個人のSeparete Propertyになるのが原則ですが、このうち、婚姻期間中に相当する部分はCommunity Propertyであるべきなものですので、その分を相手方に支払うわけです。


 こうして考えてみますと、日本とカリフォルニアでは、婚姻中の夫婦財産制度がまるっきり違うのではありますが、個別の財産、例えば退職金とか、婚姻前の財産とか、相続や贈与で得た財産とか、その離婚時の扱いというのは、ほぼ同じような感じであると言うことができると思います。但し、裁判の国アメリカですので、その分け方に関する判例もかなり蓄積されていて、たとえばですね、Separete Propertyを使って事業して稼いだお金はどうなる?(もとの財産はSeparete Propertyかもしれないけど、提供した労力は夫婦の一方だから、その労力の対価部分はCommunity Propertyに属するべき)とか、結構ですね、細かい判例の動きがあるのです。はい、丁度1年前に勉強したなあなんて思い出しています。


 前振りがかなーり長くなりましたが、じゃあ、中国の夫婦財産制度はどうなのでしょうか?日本のように、原則として夫婦それぞれの個別財産という制度なのでしょうか?それともカリフォルニア州のCommunity Propertyのように、夫婦は原則共有財産という制度でしょうか。離婚の時の財産分与はカリフォルニアのように共有財産のみをわけわけするという制度なのでしょうか、それとも日本のように夫婦共有・個別財産を問わず一切を対象とする制度なのでしょうか。いずれの制度にせよ、例えば、婚姻前の財産やら、婚姻期間中に相続や贈与で得た財産は、財産分与の対象となるのでしょうか?


 今日私が手直ししたバージョンが基礎として使われ、それがSupercityの2月号に掲載されますと、その答えはそこに書かれていると思います。


 うーん、比較法って、おもしろいですね〜