藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

パウエルは悪者か???


サンケイスポーツ電子版2008年1月31日付
【パウエルは二重契約!パ会長が判断、球団間で問題解決指示】
http://www.sanspo.com/baseball/top/bt200801/bt2008013119.html

 パ・リーグ小池唯夫会長(75)は30日、都内のパ連盟事務所で前巨人のジェレミー・パウエル投手(31)と今季契約に合意したと主張するオリックスソフトバンクから事情を聴いた。同会長は双方の契約とも有効としてパウエル側の行為は二重契約と判断。現状のまま両球団から選手契約承認申請がなされても受理せず、両球団とパウエルとの間で善後策を話し合うよう指示した。

 オリックスの異議申し立てを受けて行われた話し合いは、約2時間半に及んだ。オリックスから機谷(はたたに)球団代表、中村球団本部長ら4人が、ソフトバンクからは角田球団代表、木村広報室長が出席。リーグ側からは小池会長らのほか、パ・リーグ理事会の理事長で弁護士経験がある楽天・井上オーナー代行も同席して両球団の主張を聞いた。

 まずパウエルと両球団が交わした統一契約書について、両者が確認。オリックスはファクス、ソフトバンクは原本だったが、ともにパウエル本人のサインがあった。小池会長は「両球団ともそれぞれ正当な手続きを踏んでおり、どちらも契約は有効だった」と、パウエルの契約が二重契約であると判断した。井上理事長も「法律的には(契約時期の)早い遅いは関係ない。契約は両方とも成立している」と話した。

 オリックスソフトバンク双方の契約が有効となり、このままでは両球団から統一契約書が連盟会長に提出される恐れがある。統一契約書の提出が契約承認となることから、小池会長は現状では両球団からの申請を受理しないことを決めた。「ソフトバンクが出し抜いたわけではないようだ。パウエル側に問題があるのではないか。まず両球団ともパウエル側との意思確認に努力してほしい」と、両球団間での問題解決を要望した。


 私もいちプロ野球ファンとして、野球に関係する契約関係には興味がありますので、こういうニュースは興味があります。


 野球協約第45条によれば、選手と球団は、「統一契約書」に基づき契約をすることとされており、更に47条によれば、「統一契約書」に特約を付することはできても、既に「統一契約書」に定められている条項を当事者の合意により変更することはできないとされています。そして、外国人選手であるという理由でこの点につき変更があるわけではありませんので、パウエル選手が、オリックスソフトバンクとの間で「統一契約書」に基づき締結した契約の中身が何かというのが次に問題になります。


 そして、「統一契約書」第34条によれば、「統一契約書」の効力は、「球団の所属連盟会長の承認によってその効力を発する」と明確に記載されています。両球団ともパリーグですので、パリーグの会長が承認するまで、契約の効力が発生していないのです。つまり、パウエル選手は2つの契約書にサインしていますが、まだパリーグの小池会長が承認していない以上は、契約の効力はどちらも発生していないのです。


 特に特約がなかったと仮定した場合、パウエル選手が契約書全体を検討した上で、オリックスとの契約締結後、いまだパリーグの会長の承認がない以上、他の球団とより有利な契約をすることができると判断したとしても、それは法的にはやむを得ないような気がするのは、私だけでしょうか。つまり、パウエル選手は、パリーグ会長の承認前に「二重契約」をすることについて、既に締結していたオリックスとの間の「統一契約書」違反である点は何もないのです。もちろん、日本の契約法上の論理からすれば、信義則上オリックス期待権が発生していたとは言えるでしょうが。


 この問題は、そもそも、選手と球団が契約書を締結してから、パリーグ会長の承認までの間は、契約の効力が発生しないと「統一契約書」上定めておきながらも、「二重契約」の問題を全く想定していなかった「統一契約書」の不備にこそ問題があるのであって、このことを棚に上げながら、パウエル選手1人を批判するものではないように思うのですが・・・。


 従って、オリックスが「条件を変えるつもりはない、うちが正当だ」云々をいまだ主張するのであれば、それはちょっと違うんじゃないの?と思ってしまいます。法的にいえば、パウエルは、信義則違反による損害賠償をある程度覚悟した上でであれば、有利な契約を締結する自由がありますし、それを許すような「統一契約書」になっていることを球団側が自覚すべきです。