藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

日本人弁護士の価値


 最近、あるお客様から、相手方から送付されてきたという契約書案を受領しました。
 相手方というのは、中国企業でして、それは相手方の弁護士が監修したものらしい旨をお客様から聞きました。


 しかし、10秒で明らかに分かる中国法上の問題点があって、絶対に政府の関係機関により批准(日本語でいう許可)され得ない契約内容になっていました。


 ・・・これは極端な例かもしれませんが、中国人弁護士の質的な問題はいまだ解決していないという一例であろうと思います。


 ・・・


 中国の法律業界では、外国の弁護士たちは肩身の狭い思いをしながら仕事をしています。
 まず、中国の弁護士法(律師法)58条および外国律師事務所駐華代表機構管理条例15条に基づけば、中国国内に存在する外国弁護士事務所は、その事務所の単独業務として中国国内法業務に従事することはできません。


 この種の制限は、日本でもカリフォルニアでもあるのですが、中国では日本やカリフォルニアではない次の2点の制限がある点がより重要です。第1に、同条例16条により、そのような外国弁護士事務所が中国人弁護士を直接雇用したとしても、やはり中国国内法業務に従事できない、という制限です。第2に、司法試験実施弁法(試行)第13条によれば、そもそも中国人でなければ、中国の司法試験を受けられず、結果として外国人が中国の資格弁護士(執業律師)になれないという制限です。


 すなわち、依頼者の側にたてば、中国国内法業務につき、中国国内に設立されている外国資本(日本を含む)の法律事務所に中国法業務を単独で依頼することができない訳です。どんなに私が中国法に熟知していたとしても、中国の司法試験に通る力があったとしても、私が中国でオフィスを構えても、私の事務所単独では中国国内法業務ができないのです。じゃあ、中国の法律事務所に依頼した上で、更に日本の弁護士も併用するような依頼をするメリットがあるのか、それが1つの論点です。


 勿論外国の弁護士よりも優秀で、かつ、当該外国人/企業の依頼者のニーズを的確に掴むことができれば、外国人弁護士は不要、ということになるのでしょう。しかし実際には、上海には沢山の日本を含む外国資本の法律事務所が存在しています。少なくとも現時点でいえば、全ての中国人弁護士がそうであるという訳ではないでしょうが、外国人/企業依頼者にとって、まず自国の弁護士に依頼する方が、合理的だということなのでしょう。


 実は、そのような弁護士は、いずれいなくなるだろうと、私は当初思っていました。
 なにせ、例えば私が上海にオフィスを構えたら、中国法案件について、毎回毎回中国人弁護士と提携して仕事しなきゃ進まないというのは、効率が悪いし、徐々に中国人弁護士の質も向上するだろうと思ったからです。また、私は上海に来る前にロサンゼルスで学び、働いていたのですが、私がいたオフィスには、沢山の日系人であるカリフォルニア州弁護士が居ましたので、新たに日本資格弁護士を多数雇用しなくても、つまりは私などいなくても、日系企業のニーズにあったリーガルサービスを提供できていると感じていましたから、同じように中国もなっていくんだろうなあ、と思っていたのです。


 しかし、上述のような中国の法曹界が外国資格弁護士や外国人を排除するような厳しい規制を続ける限り、逆説的に言えば、外国資本の依頼者は、一部の中国人弁護士を直接使いこなせる企業を除き、外国の法律事務所や弁護士にまず中国法業務について依頼するというスタイルを余り変えないのではないかと、最近私は思うようになりました。何故なら、さきほどのカリフォルニアの例を考えれば分かりやすいのですが、中国公民しか司法試験に通ることができませんので、中国の法律事務所に、優秀な外国人が勤務する可能性や蓋然性が低いからです。


 私のように一時的な研修として中国の法律事務所を選択するモノは結構いますが、中国の超大手法律事務所であっても、まだ日本人を本当の意味でアソシエイト(勤務弁護士)として雇用しているところはありません。だって、中国の司法試験を通ることができない、つまり中国で弁護士としては働けないのに、中国人の「下」で好んで長い期間働く優秀な人がいるでしょうか。


 これがアメリカなら、たとえ最初アメリカ人の「下」であっても、同じニューヨーク州弁護士、カリフォルニア州弁護士として、同じ資格のもとで争うことができるわけで、実際日系人・日本人でも事務所に多数入り、多数がパートナーとなっている訳です。しかし、中国では、さまざまな規制によって、それができないのです。


 結局、外国の弁護士事務所や外国人弁護士から過度に保護されている中国の法律事務所は、一定の成功を収めつつあるとしても、外国の依頼者から見て、本当の意味で、信頼される弁護士事務所になることは、暫くないように思えてきました。同時に、依頼者側から見て、自分のような弁護士の存在意義というのも、今は結構あるような気がしてきています。


 中国人弁護士の全てが悪いという訳ではなく、優秀な方も沢山いるので、単純に日本人弁護士>中国人弁護士、と私が考えていると誤解はされたくないのですが、どんなに優秀な中国人、どんなに日本語が流暢な中国人であっても、日本の法律業界を真に熟知し、日本の依頼者の需要をきちんと理解している方は多くありません。いずれにしても、中国人弁護士を守っている制度が、結果として、日本の法律事務所の日本人弁護士の需要をある程度築いているような気がしています。全て1人で仕事できないという意味では、弁護士としてちょっと歯がゆい面もありますが、このような需要に応えていくのは、私の仕事の1つになるのだろうと思います。