藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

三浦知義氏の逮捕(1)


 三浦和義氏の逮捕には正直驚きました。
 しかし、みんな正確な知識をもって発言して欲しいものです(注、私も若干不正確な発言をしておりましたので、後述(3)も踏まえてお読み下さい)。


 つまり、何故、日本で無罪となった事件につき、アメリカで逮捕起訴されようとしているのか。
 アメリカでは時効がない場合がある、こんなことが盛んに言われていますが、それだけでは彼を起訴することはできません。もっと本質的な「一事不再理」「二重の危険」に踏み込んだ発言があまりありません。


 まず、アメリカ合衆国憲法修正5条は、DOUBLE JEOPARDY (二重の危険)の法理を認めています。つまり、一度有罪となる危険に曝されたのであれば、同じ罪で再度危険に曝されることはないという法理です。


 次に、カリフォルニアでは、この原理を海外での判決にも適用していました(改正前刑事法)。すなわち、
"[A] defendant may not be convicted after a prior acquittal or conviction in another jurisdiction if all the acts constituting the offense in this state were necessary to prove the offense in the prior prosecution; however, a conviction in this state is not barred where the offense committed is not the same act but involves an element not present in the prior prosecution.." ( People v. Belcher (1974) 11 Cal. 3d 91, 99 [113 Cal. Rptr. 1, 520 P.2d 385].


 日本語訳をつけますと、
「被告人は、もしこの州(カリフォルニア州)における当該罪を構成する全ての行為が前の(別の法域での)起訴における罪を証明するのに必要である場合、別の法域における間の無罪や有罪の判決の後で有罪を宣告されなくてもよい。しかしながら、その罪が同じ行為ではなく、前の起訴において存在していない要素を含む場合、この州における有罪宣告は禁じられない」(1974年, 検察官対Belcherさん)


 つまり、日本で問題になった和美さん殺害の構成要件事実と、カリフォルニアのそれが全く同じ行為であれば、やはり再度起訴されることはないのです(少なくとも改正前は)。


 しかし、問題は、報道されている「新証拠」です。
 日本における構成要件事実は、詳細は覚えていませんが、確か殺人の共謀があったというものであったと思います。これが実行犯が不明であったために非常に曖昧な共謀の認定であったような気がしますが、仮に、日本の起訴状で問題となった「以外」の共謀の事実が問題となるとすれば、日本の起訴状にかかれた共謀Aと、いま問題になっている共謀Bは両立する関係になりますので、共謀Aは無罪でも共謀Bが有罪となり得るのです。


 従って、アメリカの裁判で問題となるのは、いったい日本の無罪判決でいかなる「危険」が生じたのか、という点ではないかと思います。起訴状、判決書を分析し、これと今般の起訴とを併せて考えて、Double Jeopardyと言えるかどうか、この点を正しく主張しなければならないのですから、単に米国の刑事訴訟に通じているだけの方が弁護すると危険です。


 ちなみに、若干細かい話ですが、下記報道にもやや不正確な記載があります。
http://www.asahi.com/national/update/0226/TKY200802250491.html

 米国では州ごとに刑事司法手続きが一部異なる。同州の場合、逮捕された容疑者は、捜査当局による取り調べを受ける。その後、「予備審問」で判事が証拠などから起訴に相当する理由があるかを判断。起訴に相当するとされ、容疑者が罪を認めなければ、16人から23人の市民からなる「大陪審」が起訴するかを決める。大陪審が起訴すべきだと判断すれば、州地裁で審理を受ける。


 カリフォルニア州刑事法(California Penal Code)第888条の2によれば、11人から23人なんですけどねえ。。。まあ、11人なのは、人口が2万人以下の郡でなければあり得ないのですが、カリフォルニアには7つくらい人口2万人未満の郡がありますので・・・。