藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

三浦知義氏の逮捕(2)


 前の私の記事について
http://d.hatena.ne.jp/attorney-at-law/20080226/1203957902


2ちゃんねるでは、当該ケースは国内法に関するものであって、今回の場合には妥当しないという議論もあるようですが、いかがでしょうか。よろしければご教示ください。
http://school7.2ch.net/test/read.cgi/shihou/1203798235/


 というコメントがありました。


 例えば、People v. Lazarevich (95 Cal. App. 4th 416)なんてどうでしょうか。
(ちなみに米国の判例で「People」と見かけたら、「検察官」という意味です。)


 1989年5月、被告人Dragisa Lazarevichはその妻Shayna Lazarevichと離婚します。2人の間には子供が2人居ましたが、「監護権」(physical custody、日本流に言えば「親権」)は妻に与えられ、被告人には面接権が与えられました。


 同年9月29日、被告人は別れた妻に電話して、30日から10月1日にかけて子供と会いたいと連絡します。30日に子供と会い、1日に子供を連れて元妻の家(カリフォルニア州サンタクルズにあります)に戻るという話でした。ところが、被告人は、子供を連れたまま、妻のところには戻りませんでした。


 実は、被告人は故郷のユーゴスラビアセルビアまで子供を連れて戻ってしまったのです。


 1991年、セルビア共和国刑法第116条第1項による未成年誘拐・未成年監禁の罪に触れたとして、セルビアで被告人に対する刑事裁判手続が始まります。同年10月22日、被告は有罪と宣告され、罰金刑が科せられます。


 その後も実際には子供はセルビアで過ごした訳ですが、1995年6月7日、セルビアの政府関係者が子供を保護し、外交ルートを通じて同年6月8日、元妻のもとに返されます。


 被告人は、その後結局アメリカに行き、1997年、偽造パスポートに関する連邦法上の刑事犯罪で捕まります。その後、未成年誘拐・監禁の罪でも起訴されたのです。


 被告人は、既にセルビア共和国で未成年誘拐の罪で刑事処分を受けていることから、二重の危険(Double Jeopardy)であり、起訴が不当であると主張し、地方裁判所はこれを認めます。しかし検察官が高等裁判所(Court of Appeal of California, Sixth Appellate District)に抗告したのです。


 確かに、修正5条そのものは、違う法域における同じ行為の起訴・処罰までを禁じるものではありません(前回の説明は、この点を言い切っていなかったという点では若干不親切でした)。しかし、「ある州は、合衆国憲法が規定するよりも大きな「二重の危険」の保護をすることができる」のです。そしてカリフォルニア州の刑事法によれば、「他の州、政府、国家の法のもとでの刑事訴追」であっても、「二重の危険」となる、ということになるのです。


 但し、「被告人は、もしこの州(カリフォルニア州)における当該罪を構成する全ての行為が前の(別の法域での)起訴における罪を証明するのに必要である場合、別の法域における間の無罪や有罪の判決の後で有罪を宣告されなくてもよい。しかしながら、その罪が同じ行為ではなく、前の起訴において存在していない要素を含む場合、この州における有罪宣告は禁じられない」(People v. Belcher (1974), 11 Cal. 3d 91)という点に言及します。


 そして本件を見てみると、まず起訴状によると、1989年10月1日から1995年6月8日までの未成年誘拐・監禁の罪でカリフォルニアで起訴されており、セルビアでは、裁判の日からも分かるように、1991年までの未成年誘拐・監禁で起訴され処罰された訳です。そこで検察官は(おそらく訴因を変更したのでしょうが)1992年から1995年までの未成年誘拐・監禁については、「二重の危険」が生じてないと主張したのです。


 高等裁判所は結論としてかかる検察官の主張を認め、このセルビアで問題となっていない部分について、二重の危険が生じていないと判示し、この部分について地裁で審理するように命じたのです。


 カリフォルニアでは、確かに日本の刑事裁判で生じた「危険」であっても、少なくとも刑事法改正前においては「二重の危険」が生じると思います。しかし、共謀罪ですので、共謀の内容が、日本で問題になったものと異なるのであれば、「二重の危険」が生じないことになり、検察側が訴訟追行できると思います。ですので、日本での起訴状や判決の分析が、検察側・弁護側双方不可欠ではないかと、前回述べた次第です。


 しかし、改正刑事法の影響を無視することはできないので、この点は(3)に譲ります。