藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

橋下弁護士VS今枝弁護士について。


橋下徹のLawyer's Eye
http://hashimotol.exblog.jp/

弁護士・未熟な人間・今枝仁
http://beauty.geocities.yahoo.co.jp/gl/imajin28490


 ご存じの方も多いと思うのですが、光市の母子殺害事件に関し、被告人の弁護人を務めていたうちの1人が、今枝仁という弁護士で、彼を含む弁護人の弁護活動を公の場で批判したのが、テレビでお馴染みの橋下徹弁護士です。橋下弁護士は光市の母子殺害事件の弁護活動を批判したのみならず、テレビという場で、弁護人に対する懲戒請求をするように促したとされ、その行為に対し、今枝弁護士を含む4名の弁護人が、これを不法行為として民事訴訟を提起したことでも話題になりました。


 この件について、普通の弁護士がどのように考えているのか、まあ・・・私が普通かどうか分かりませんが、少し書いておいた方が良いのではないかと思い、ここに記載する次第です。



 第1に、橋下弁護士の真意は分かりかねますが、彼の発言の一部から刑事弁護活動を誤解しないで欲しいというのが、多くの弁護士の思いではないかと思います。少なくとも私の想いです。


 よく「何故悪い人を弁護するのか?」「弁護士は正義の味方ではないのか?」という質問があがったりします。しかし、「悪い人」「正義」とはどうやって決まるのでしょうか?私自身そうですが、良かれと思ってやったことが結果的に人を傷つけてしまったり、自分が正しいと思っていることが実は間違っていたりすることが良くあります。物事に「絶対」というのは、なかなかないものです。そんな中で、刑事裁判は、国家権力が人を裁き、時に死刑という重い刑罰を与えます。これが、安易に用いられてしまったら、どう思いますか?「それでもボクはやっていない」という痴漢えん罪事件を題材とした映画でも問題とされていましたが、真実何もしていない人が、刑罰を受ける危険は、普通に生活している我々誰にもあり得ることなんです。

 
 つまり、どんな「悪い人」がやった「正義」に反する犯罪も、もしかしたら、そうじゃない部分、これは、もしかしたらそもそも別人が犯罪を犯していて無罪、というのもあれば、確かに犯行を犯したが心神喪失などの理由で精神的に、あるいは正当防衛などの理由で状況的にやむを得なかったとか、非難はされるべきだが情状に酌量の余地があるとか、色々ですが、とにかく、その「犯人」なりに、「犯人」に有利な事情があるのです。そういった有利な事情をどうやって裁判に生かせば、公平な、少なくとも公平らしい裁判ができるでしょうか。


 検察官?検察官は裁判所に刑の執行を求める側であり、判決確定後は実際に刑を執行する担当者です。従って、悪い事情は沢山裁判所に積極的に提出しますが、良い事情はそれ程出してくれません。

 裁判官?確かに裁判官が犯罪の有無と刑の軽重を決めるのですが、裁判官が公平に正しく判断するには、検察官の逆の役割ができる人、つまり、検察官が沢山「犯人」の悪い事情を出してくれますので、全く正反対に、一生懸命被告人の良い事情を提出してくれる人がいてこそ、公平に正しく判断できるものです。


 ですから、弁護人は、一生懸命、被告人のために仕事をするのですが、これは、何も被告人だけのためではなく、刑事裁判という制度が、公平に運用されるための、必要な一部分としてやっている訳です。そうやって、真に検察官と弁護人が激しくやりやってこそ、裁判官が初めて中立に判断できるのです。弁護人まで、下手な「正義」感を持って被告人を非難しはじめたら、一体誰が被告人の主張を酌んでやることができるでしょうか?


 ですから、弁護人は、時に世間の常識からずれたようにも思える主張をしたりすることがあります。しかし、それも全体として公平な裁判をするための1つの手段なのです。


 このような弁護人の活動に、なにも法律の素人の方だけではなく、国もあまり理解がないなあと思うのが、国選弁護活動の費用(弁護士報酬)です。お金のない人のために、被告人は国費で弁護士をつける(国選弁護)ができるのですが、最近、もともと低かったこの報酬が更に下がっていると言います。私が日本にいた頃で、通常の地裁国選弁護報酬が6万円台(裁判の終わりまで)だったと思いますが、いまいくらなんでしょうか??最近、富山のえん罪事件が話題となっていますが、弁護人が一生懸命活動するための報酬をどの程度とすべきか、これがあんまり低いと、そりゃ、えん罪を弁護人が防ぐこともできないかもしれないと、危機感を持つ次第です。



 橋下弁護士も司法試験合格者ですので、当然以上のようなことを知っておられると思うのですが、言われているように、事件の全般を報道以外で知る由もない筈なのに懲戒請求まで人々に促したというのが本当であれば、それが不法行為に該当するかどうかは別として、理解に苦しんでしまいます。。。。今までどんな刑事弁護活動をされてきたのか、どの程度国選弁護をやってこられたのか聞いてみたいです。



 第2に、これは今枝弁護士のブログを見てびっくりしたのですが、かなり詳細に、具体的な事件のありようについて記載されています。おそらくは橋下弁護士の主張に反論する過程で記載する必要があると感じられたのだと思いますが、いかに社会的関心が高い事件であるとしても、ちょっと具体的事件について、それが守秘義務違反ではないのかもしれないのですが、書きすぎではないか、という危惧を持ちました。


 弁護士は、依頼者の秘密を守る、これはもっとも基本的な部分です。
 正直に告白すれば、私は本当になりたての頃、この点で苦い経験をしました。この点とても気を付けて弁護士活動を始めたつもりが、思いも寄らない人と人との結びつきで、依頼者のプライバシーが他人に少し明らかになってしまったことがありました。逆の経験もありました。これも私が弁護士なり立ての頃の話ですが、相手方弁護士が間違って、相手方依頼者に送るべきFAXを私宛に送ってしまったというものです。これは相手方弁護士の秘書のミスでしたが、その弁護士事務所は日本でも有数の事務所でした。気を付けて、気を付けすぎる位で初めてやっと守秘義務は守れるものだと実感しました。


 私のブログが、中国やアメリカの生活ネタばかりで法律家として今ひとつおもろくない、と思われる方も多いと思いますが、事件の具体的内容は勿論かけませんし、それを類推させるネタも、それが公になっているなら別ですが、なかなか書けるものじゃありません。


 勿論、この光市の事件は、連日報道され「公」にされている訳ですが、今枝弁護士のブログでは、被告人との接触の内容、弁護団会議の内容など、まさに弁護方針について、かなり詳細に書かれています。被告人本人の承諾があるなどの理由で、おそらく「公」にしても大丈夫なんだと思いますが、別の依頼者が今枝弁護士に依頼するときに、自分との相談内容が「公」にされるという危険を感じるのではないでしょうか。刑事被告人が、弁護人に言ったことは全て「公」になると、誤解しなければいいなあ・・・と思います。


 いずれにしても、色々なタイプの弁護士が出てきたこと自体は良いことだと思います。
 私は、自分では極めて真っ当な常識的な弁護士であると信じているのですが、私は私なりのやり方で、よのなかに貢献していければなあ、と思っています。