藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

若き法曹のために、外弁規制をかみ砕いて説明しよう。(3)TPPで何が変わる?


 さて、やっと法曹界とTPPについて議論する下地ができました。まだの方は先に(1)と(2)を読んで下さい。


 (2)で述べたとおり、TPPは交渉中ですから、どうなるかは分かりません。しかし、実際に発効しているP4がありますので、これを基礎として予測することはできます。


 このP4の12章(Article 12)には、サービス貿易について言及があります。


 ここで注目すべきなのは、GATS16条〜18条との規制のやり方の相違です。GATSの16条から18条は「約束表」("Schedule")に記載があった部分についてのみ、内国民待遇や市場アクセスについて市場解放の義務を負うのですが、P4では、逆で、内国民待遇や市場アクセスについても、例外規定(Article 12.8参照)に規定しない限りにおいては、完全に解放義務を負う訳です(Article 12.4及び12.5参照)。


 また、GATSには明文がない事項として、P4では、「地方の存在」(Local Access)という条項(Article 12.7)があります。


 Article 12.7では「当事国は,自国の領土におけるあるサービスの供給のための条件として,他の当事国のサービス供給者に対し,駐在事務所若しくは他の形式の事業体を設置し若しくは維持すること,又は居住者となることを要求してはならない。」と規定されています。


 例えばP4類似のTPPを日本が締結し批准すれば、外国法事務弁護士について,180日の日本滞在を要求している規制(外弁法48条)や、「外国法事務弁護士事務所は、その外国法事務弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない。」とする規制(外弁法45条4項)は問題になってくると容易に予測できます。


 まあ、この程度だったらたいしたことないと思うかもしれませんが、例えば中国の律師さんが日本で外弁登録をしない理由の1つが、180日も日本にいないし、日本に事務所を固定で構えるのはコストが高いというものではないかと思うのです。もしも、これらの規制がなくなれば、「取りあえず日本で開業するか」という外国の方は相当増えるのではないかと思うのです。


 また、市場アクセス規制の中では、
(a) サービス供給者の数を制限すること
(b) サービス取引又は資産の総価値にて制限すること。
(c) サービス運用の総数又はサービス出力の総量にて制限すること。
(d) 特定のサービスセクタにて採用され,又はあるサービス供給者が採用する自然人の総数を制限すること。
(e) サービス供給者がサービスを供給しても良い特定のタイプの法人又はJVを制限し又は要求する措置

といったものが禁止されている(Art.12.6)ので、まあ、これはまもなくどっちみち開放されますが、現時点において外国法事務弁護士には弁護士法人が認められておらず(弁護士法・外弁法を改正して、外国法事務弁護士にも、自分たちで、又は弁護士と共同して(混合法人と呼ばれています)弁護士法人を設立することは認められる予定です)、弁護士には認められているのは(e)違反になり得ますし、財産的基礎やら損害賠償能力を要求している現在の外弁法規制が(b)違反になる可能性が生じることになり得ます。


 もっとも、これらは外弁の現状になると、合理的な国内規制だったり、合理的な専門職規制だったりすることになる可能性も十分ありますが(Art.12.10及び12.11を参照)。


 正直、TPPと、混合法人の開放がセットとなって一番予測されることは、近隣国の弁護士相当職の方が外弁資格をお持ちになって、日本の弁護士と「混合法人」(外弁と弁護士の出資による弁護士法人)を設立し、安く外国法事務弁護士を採用して、弁護士法人の名前のもとで多数の支店を設立し、脱法的に法律事務をやらせてしまう、といったリスクです。これは、欧米の外国法事務弁護士では、コスト的に合わないと思いますので、比較的安く雇用できるアジアやオセアニアの、日本と縁がある中堅以下の弁護士事務所が考える可能性がある行動ではないかと思っています。


 ちなみに、某国の弁護士から要求されている外弁法の改正要求事項のトップは、Fly-in-Fly-outです。これは、30日とか90日という枠の中で、相手国で活動を自由に認めよう、具体的には、オフィスを持ってもOKというもので、例えばこれが認められると、日本の外国法事務弁護士の資格を持たない某国の弁護士が、ホテルかどっかにオフィスを持って、4人で交代(90日×4人)でやってきて、実質的に外国法事務弁護士の資格を得ることなく日本で開業することが可能となります。まあ30日とか90日なら良いかなあ〜と思って許してしまうと、外弁制度が骨抜きになって、日本の弁護士に与える影響がかなり大きいのではないかと予測します。ただ、TPPの締結により必ずこうしなければならない、という開放事項ではないですね。


 最近のTPPの議論の中には、弁護士業界に限らず、P4すら読まずに議論しているものが多いので、???というのが私の感想でしたので、私はP4に基づき議論してみました。無論、現在交渉中のTPPは、P4とは相当大きく変わる可能性がありますが、サービス分野については、GATSとP4を基礎として条約が作成されることは明らかだと思いますので、注目する価値はあると思います。


 取りあえずはこんなところですね。