藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

竹原隆信元弁護士の逮捕


 ちょっと疲れ目でして、仕事終わってからいままで寝ておりました・・・。
 すっかり回復して、久々に更新いたします。


ジブリ」アニメのフィギュア会社脱税容疑 社長ら逮捕
朝日新聞電子版平成19年11月12日付
http://www.asahi.com/national/update/1112/TKY200711120268.html

 東京地検特捜部は12日、架空の経費計上などの手口で05年2月期までの3年間に約2億円の所得を隠し、約5700万円を脱税したとして、人気アニメ制作会社「スタジオジブリ」からフィギュア製造を請け負っていた「コミニカ」(東京都新宿区)社長の大久保恭子(52)、元同社顧問弁護士で元検事の竹原隆信(49)の両容疑者を法人税法違反(脱税)容疑で逮捕した。竹原元弁護士は大久保社長と内縁関係にあり、脱税の指南や、脱税マネーの管理をしていたとされる。

・・・

 竹原元弁護士は元検事。83年に任官後、札幌地検旭川地検などで勤務し、87年に退官して弁護士登録をした。都内の大手渉外事務所で企業法務などを担当したが、今年8月に弁護士登録を取り消していた。国際分野も手がけており、米ニューヨーク州でも弁護士登録していた。米国の裁判制度や日本企業の国際訴訟への対処法などを解説した著書もある。講演などでは、企業のコンプライアンス(法令順守)の重要性などを訴えていたという。


 竹原隆信元弁護士は、検索して頂いたらすぐ分かりますが、弁護士344名(10月16日現在)という、いま日本でもっとも大きな法律事務所である「西村あさひ法律事務所」のパートナー弁護士だった人です。弁護士として大成功を収めた筈の人の転落については、特に元の所属が日本最大の法律事務所であるということもあって事件性という意味で大きいでしょうが、我々弁護士としては、それ以上に、まずどこが間違い(あくまで「逮捕」までですから、実際に何をしたのかは分かりませんが)だったのか、学ぶ必要はあるように思います)。


 私が自分の体験から感じるその第1は、危ない橋に当事者として関与してしまった、これが大きいように思います。

 弁護士というものは、基本的に代理人な訳ですが、私も、どちらかといえば熱くなる人間だけに、日本で仕事をしていた頃、依頼者の利益を考える余り、代理人というよりは本人に近い立場で会議に出席し、そこでのやりとりが結果的に長期的にみて余り依頼者の利益にならなかったという経験があります。何故依頼者が弁護士を求めるのか、それは、依頼者の利益を最大限にしたいから、なのですが、代理人として、本人とは違った立場で冷静に事案を眺め、勿論依頼者のために一生懸命働く訳ですが、ダメなものはダメと言えるような役割もきちんと果たさなければいけないのではないか、と思う次第です。


 もう1つ、これは、日本の弁護士業界全体に言えることなのですが、弁護士が一度「パートナー」なるものになった後に、同じ事務所内での「コンプライアンス」がきちんとできているのだろうか、という疑問があります。

 パートナーは「経営者弁護士」、アソシエイトは「勤務弁護士」であり、アソシエイトの仕事は、基本的に同じ事務所のパートナーが監督管理することによって、「おかしな筋」に行くことが防止されるような構造になっています。しかし、事件の全てがパートナー+アソシエイトという組み合わせで行われている訳ではありません。特に相談案件では、パートナーが1人で受け持つこともあるように思います。その場合、当該弁護士が「おかしな筋」に行き始めた際にそれをくい止めるような制度的保証がないように思います。

 私は「西村あさひ法律事務所」のパートナー間での事件管理の方法は分かりません。しかし、このような相談を竹原隆信元弁護士が受けているということを、他のパートナーは知っていたのでしょうか。勿論、顧問契約があること自体は知っていた筈ですが、それ以上の個々の相談については全く知らなかったのではないでしょうか。恐らく、個人的な関係もあって、相談が「顧問料の範囲」で行われていた(別途のチャージがされない)、そうすると「売上」が立たないので知りようがない、という帰結だったのではないかと推察します。要するに「パートナー」の事件について、アソシエイトを使うような大きな事件を除いては、組織としてリーガルサービスを管理できていなかったのではないか、あくまで推察ではありますが、仮に管理できていればこんな事件にはならなかった筈です。顧問契約も含め、全て複数のパートナーで受任するというやり方にすれば、こんな事はなかったのではないでしょうか。


 では何故、大きな弁護士事務所という組織であっても、1人で事件を抱えるのでしょうか。
 日本の依頼者が一般に、弁護士に対し余り費用を払いたがらないという点は、無視できない要因の1つだと思います。依頼者から見れば、大きなプロジェクトの場合を除けば、相談相手の弁護士が1人でも2人でも余り代わり映えはしないように思います。増やせばそれだけタイムチャージも増えてしまいます。しかし、上述のとおり、複数の弁護士が相互にチェックしながら、より冷静な立場で物事を考えることには、最終的には依頼者に還元できる大きなメリットがあるように思います。


 日本に戻った後、どこでどうやって仕事しているかは分かりませんが、幸か不幸か、日本出発直前から今日に至るまで、直接間接に、日本やアメリカの弁護士の「失敗例」を見る機会が結構ありました。このような点は十分意識した仕事のやり方を考えてみたいです。