藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

弁護士事務所の採用とアソシエイトの在り方について


 もうすぐウチの事務所でも、今年の司法試験後を睨んだサマークラークの募集を始めないといけません。まだ私は、比較的若手のパートナー弁護士に過ぎませんが、私なりに、弁護士事務所がどういう人材を望んでいるのか、少しここで私見を述べさせて頂きたいと思います。


 まず、弁護士事務所は、何故新人を募集するのでしょうか。

 大きく分けて2つ理由があると思います。1つは、仕事の担い手を募集するというものです。私もそうですが、弁護士業を続けていると、なかなか1人では仕事ができなくなります。自分(パートナー)の仕事を助けて欲しいと思うことは沢山あるのです。ただ、この理由「のみ」で新人募集をするところは、必ずしも多数派ではないのではないかと思います。

 もう1つの理由は、仕事を取ってくる人、つまり、将来のパートナー(共同経営者)を募集するというものです。弁護士事務所が長期継続して健全に発展するには、1人のボスに残りアソシエイトという形式は相応しくありません。何故なら、そのボスがいなくなれば、仕事を所内に供給する頂点がなくなってしまうからです。ちゃんと、将来パートナーになって、仕事を取って来てくれる人を育てることは、弁護士事務所の発展に不可欠です。


 従って、一般的に言えば、弁護士事務所は、短期的には仕事の担い手となり、中長期的にはパートナーになれるような仕事が取れる人、を採用したがる、と、私は思いますし、多くの事務所は実際そうだと思います。ただ、事務所によってその比重は異なるでしょう。例えば、事務所の名前で仕事がわんさか来ている事務所が存在すれば、いまの仕事の担い手を欲する点がより強いでしょうし、仕事の担い手としてはまあまあ足りているが、事務所の売り上げが低迷しているという場合に敢えて人を取るとすれば、パートナーになれる人材という点が強いかもしれません。


 ところで、弁護士事務所で仕事を取れる人って、どんな人でしょうか。

 成績トップの人でしょうか?いえ、違います。万人受けする人でしょうか?これも違います。弁護士は政治家と異なり、選挙に勝つ必要はありません。特定の熱烈なファンがいて、仕事が取れれば良いのです。その仕事の取り方に決まりはありません。人柄で仕事が集まる場合もあれば、特異な能力で集まる場合もあるでしょう。要は、色々な人間に可能性がある訳です。ただ言えるのは、3万人以上も弁護士がいるなかで、敢えてその弁護士をクライアントが選ぶ以上、きっと他の方と違う何かがある筈です。それが何かは、僕らも分からないですが、採用する側としては、そういった何か光るものを一生懸命探す訳です。

 そんな中で、芸があれば身を助けるかもしれません。クライアント捜しは、ある意味確率論なところがありますので、沢山人を知っていることが重要かもしれません。他の弁護士との競争が手薄な分野は仕事を取れる確率が高くなるかもしれないので、特殊な語学とかが有利かもしれません。しかし、一概には言えないですよね。


 そんな、あるかないか分からない光の原石を探すのは大変ですから、それは育てた後の将来に期待して、まずは仕事の担い手として有能かどうかを重視するという見方もあり得るところです。特に、比較的大量に採用する事務所であれば、法科大学院時代や司法試験の成績といった、客観的に分かりやすい基準で採用しているところが多いように思います。しかし、既に述べたとおり、これだけではパートナーになれる人材なのか否かは良く分かりません。また、成績がホンマに法律家として有能かどうかを示すのかも、良く分かりません。個人的には、特に司法試験の結果は一発勝負ではっきりとは分からない気がしていますが、他方で法科大学院の成績も、大学によっては非常に甘いので、全ての大学院で信頼ができるとは思っていません。


 そう思うと、採用される側からすれば、各法律事務所に、この人材は、能力もあって、将来のパートナーの原石だと、思わせるアピールというのがないと、なかなか多数の候補者の中から、見出されることはないと思います。成績は客観的で分かりやすいですが、誰もが1番な訳ではないでしょうし、上述の問題点もありますから、採用される側として、自分をどう構成するのかが問われていると思います。どうやったら、良い印象が残るのかは、良く研究して頂きたいです。


 え?私別に特殊な人間じゃないし、法律ばかりやってきたし・・・。取り柄なんてないよ?と思う方もいるかもしれません。でも、それは自分研究が足らないと思います。だいたい、いまの世の中、そんなに特殊な学生、周囲にいましたか??いるにはいるかもしれませんが、一部でしょ?そうだとすれば、ここからはストーリー作りも大事だと思いますし、もし過去現在に特徴がないとすれば、未来に特徴が出るような工夫を、何かすることだってできるのではないでしょうか。


 また、採用する側の特徴もよく検討すべきですね。
 大きな事務所は、概して複数の採用担当弁護士がいて、合議制で採用者を決め、毎年継続採用をしていると思います。しかし、より小さい事務所になれば、採用を決める人も特定の弁護士1名であったり、また、別にその年、採用するかしないかすら決めていないことも珍しくありません。「良い人がいれば採用する」と仰る中小の事務所は、要するに、採用する側のボスと相性が合う人を求める傾向が強いと思います。小さい職場の狭い人間関係ですので、相性がより重要ですよね。



 次に、採用されたアソシエイトとして、何に留意すべきでしょうか?

 まず、アソシエイトにとって、クライアントがパートナーであるということを再認識すべきでしょう。ホントウのクライアントに成果物(意見書、準備書面等)を提出する場合、アソシエイトがファーストドラフトを作成し、パートナーがリバイズして提出することが多いと思います。しかし、アソシエイトの中には、パートナーのリバイズを期待してしまい、中途半端なものをパートナーに提出する者がいないとは言えません。そうすると、パートナーは、貴重な時間を無駄にしたことになります。つまり、例えば、提出期限5日間で、アソシエイトが3日目にパートナーに提出してきた場合、もしそのアソシエイトに頼まなければ5日間丸々検討できたのに、下手にアソシエイトに頼んだために2日間しかないという事態に陥る訳です。

 パートナーとしても、アソシエイトに最初から完璧を求めてはいないとは思いますが、こういうことが続くと、もうこのアソシエイトには頼みたくない、と思うようになります。すると、そのパートナーから事件は来なくなりますし、将来そのアソシエイトの昇進の是非を議論する際に、きっと昇進に反対するでしょう。より端的に、事務所から独立を勧告されることだってあるかもしれません。

 こうならないようにするには、アソシエイトも1人の有資格弁護士として、きちっと「完成品」をパートナーに提出することが重要です(無論、その責任はパートナーにあるのですがね)。

 更に、パートナーの指示を待たずとも、次々と作成すべき書面や手続先読みして準備するアソシエイトがいますが、これは大変助かります。そういう直接の依頼者=パートナーの意向や意図を十分酌んで、業務していれば、だんたんそのパートナーの信頼を得て、徐々に良い事件、面白い事件、大事な事件を振ってくるようになるでしょう。逆に言えば、そういう事件に「ありつく」ためにも、つまらない事件、面白くない事件ほど、きっちりきっちりこなして、パートナーの手を煩わせない努力の積み重ねが、大事ではないかと思います。


 また、前述したとおり、アソシエイトと雖も、経営者予備軍ですから、ただ言われるままのYESマンにはならない方が良いでしょう。事務所の経営や弁護士としての在り方について、例えパートナーと少し意見が違ったとしても、積極的に持論を述べ、また事務所に対する愛を語った方が、パートナーと共感し易く、よりよいパートナーシップが築けるように思います。

 経営者予備軍としての自助努力も、是非して頂きたいですね。例えば、夜ずっと事務所で仕事をしている方もいますが、長時間労働がアソシエイトに求められているのではない訳です。お客様とのお付き合いや、研究会への参加など、営業努力や自己研鑽につながるような諸活動を、若いうちから積極的にして頂くことは重要でしょう。勿論、割り振られた事件をきちんとこなすことが大前提ではありますが。


 つらつらと書いてみましたが、参考になれば・・・幸いです。
【当然ながら以上は全くの私見であり、所属事務所を含め、いかなる者を代表して述べたものではありません。悪しからず。】