藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

大阪弁護士会、破産!?


 朝起きて、何故かそんな夢を見ていたことに気付きました。
 我ながらなかなか現実味がある夢だったので、ちょっとその前提事情を紹介させてください。


 大阪弁護士会は、昨年、地上14階建ての「新会館」をオープンさせました。
 総建設費65億とか80億とか言われている結構豪華な建物です。ごめんなさい、まだ生で見たことがないので、アレですが、豪華らしいです。
 なにより敷地は旧検察庁跡地で、正確には覚えていませんが、土地取得にかなりの費用を要した筈です。


 こんな豪華な建物を即金で払えるようなお金を弁護士会が持っていた訳ではありません。旧会館も、確か国(隣接する裁判所の拡張のため)に5億円くらいで売却できたに過ぎません。
 そもそも、もともと5階建てでしかなかった大阪弁護士会の旧会館をこんなに大きくして立て替えたのは、「司法制度改革」に伴い、弁護士が急増するから、弁護士会館もみんなが集えるような大きな会館にしなければいけない!という発想でした。そしてその費用は、2002年より実施された特別会費月額5000円(18年間、1人あたり108万円)など、将来の会費によって賄われることになっています。


 あまり多くの人が知っている訳ではないでしょうが、私が弁護士登録する直前から直後にかけて、この「新会館問題」は大阪弁護士会を揺るがした大問題でした。2001年3月、この新会館建設のため、月額1万円(18年間・・・だったと思います、17年だったかも、スミマセン。1人あたり216万円)の特別会費徴収を決議する臨時総会では、当時の若手弁護士を中心とした「新会館不要論」が勃発し、なんと現在の大阪弁護士会では珍しい、執行部提案(会費値上げと検察庁跡地取得の提案)が否決される、という事態が発生したのです。


 しかし、紆余曲折があり、同じ年の10月23日、私が弁護士登録をしたまさにその月に行われた臨時総会では、3月で執行部提案に反対した先生方の一部(主として左系ではない先生方)も賛成され、また、会費値上げの内容についても、半分の会費値上げ、新人弁護士は徴収を3?年間猶予(単に先延ばしになるだけ)ということになり、新会館建設のための用地取得が弁護士会内で認められたのでした。私は、迷った末に反対を投票しています。


 さて、何故半分の会費値上げで済んだのでしょうか?
 現在の大阪弁護士会の会員数は、おおよそ3000名です。ですから、月額5000円ですと、5000×3000×12×18=32億4000万円にしかなりません。残り30億以上の「蓄え」が弁護士会にある訳ではありません。1つは、将来の更なる会費値上げを、1つは、将来の大阪弁護士会会員の増加を見込んだものと思われます。


 この結果、現在大阪弁護士会では、月額会費がおおよそ4万4700円となっています。新人・ベテランを問いません。
 ちなみに新規入会の際には、46万円が別途徴収されます。
 地方の弁護士会では、もっと会費が高いところも多いです。


 何故こんな「高い」会費と入会金を徴収できるのでしょうか。それは、弁護士会が、「強制加入団体」だからです。つまり、弁護士登録をするには、全国どこかの弁護士会に加入することが、法律上要求されるのです。そして、大阪に事務所を持ちたい弁護士は、大阪弁護士会に登録しなければならないのです。


 ところで、米国には、全米法律家協会(ABA)など、全国的な弁護士会組織や、各州の弁護士会など、様々な「弁護士会」がありますが、いずれも任意加入団体です。弁護士として登録を認める主体は、弁護士会ではなく、各州や連邦の裁判所です。その結果、登録に必要な費用はそれほど高くなく、ニューヨーク州の場合、2年間で350ドル(約4万円)です。ええ、大阪弁護士会なら1月分の会費にもならない金額です。これさえ払えば、登録を維持できる訳です。


 ですから、任意団体である「弁護士会」は、会員の獲得に「躍起」です。
 今年の1月Albanyに弁護士登録に行った日のことを思い出します。裁判所によって行われる面接を終え、まさに弁護士としての宣誓式を行う会場の入口で、実はニューヨーク州弁護士会が、まるでスーパーでクレジットカードの新規会員を募集するかのように「新年度会費無料」という大きな掲示をつけて、会員を募集していました。勿論、登録しなくても弁護士として活動できるのですが、まあ私も「無料」につられて取りあえず申込み用紙を書きました。来年どうするか、はまた後で考えます。


 司法制度改革の中で、法曹人数が急増することが決まっており、年間50万円を越す弁護士会費を払えない人が出てくるでしょう。更に一歩進んで、政府が「規制緩和」の大義名分のもと、弁護士会の「強制加入団体」という性質を、やめてしまったら???弁護士としての活動は、裁判所に登録するだけで良い、ということになったら???


 きっと、米国のように、「裁判所」による弁護士登録料は年間数万円で良くなるでしょうね。そして、弁護士会は・・・・。
 私が夢で見た、「大阪弁護士会、破産」は、もしも「強制加入団体」性がなくなってしまえば、すぐに現実となる気がします。それだけ、弁護士会というものは、「危うい」組織だと思います。


 もう1つ、仮に強制団体性は維持できたとしても、果たして大阪という土地に、今後も沢山の弁護士を必要とするだけの経済力があるでしょうか。実は、大阪弁護士会の新規登録弁護士数は、予想よりやや伸び悩んでいます。もともと、大阪弁護士会は、東京弁護士会の次に大きな組織だった*1のですが、この数年で、第1、第2東京弁護士会に、会員数で負けるようになりました*2。東京の登録数がすごく多いからです。早くも、追加的な会費値上げをしようとする声がありますが、2001年のことは、もう忘れ去られてしまったのでしょうか。


 おっとまて、私は大阪弁護士会の会員だが、弁護士法人の社員と違って、無限責任ではないよなあ・・・慌てて弁護士法を読みあさる私。。。


 弁護士会なんて、なくなってもいいやーと思う気持ちも半分ですが、人権の擁護のために今まで果たして来た役割はとても大きいものがありました。私も、大阪弁護士会の1会員として、特に法曹養成・法科大学院運営センターという委員会では、下働きをしてきましたし、戻ってもそこで頑張ろうと思っています(もし大阪に戻るなら)。ついでに言えば、私の所属する弁護士法人淀屋橋・山上合同という事務所は、かつて弁護士会に会長(米田実)、副会長(松川、田中、田積)を送っている事務所。おっと田積先生は現役の副会長でしたねえ・・・。うーん。


 いずれにせよ、司法試験合格者の増加と、大阪の経済的地位の低下は、弁護士会の存立そのものにも、大きな大きなボールを投げかけていることに、弁護士は気づき、対応を考えなければいけません。私は、弁護士会が、少なくとも22世紀において強制加入団体性を維持できているとは、到底信じられません。


 私の夢が、現実にならないことを祈るばかりです。

*1:法曹関係者であればお馴染みの話ですが、東京は歴史的な事情から弁護士会が3つあるんです。

*2:今日現在の登録者数:第1東京弁護士会3039名、第2東京弁護士会3107名、大阪弁護士会3062名(ちなみに東京弁護士会5080名)、あら、ごめんなさい、まだ小差で一弁を上回っていますね。しかし3会の直近登録者である59期司法修習生で人数比較しますと、一弁196名、二弁185名に対し、大弁142名(ちなみに東弁259名)ですから、今年中には確実に・・・。